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【ドラフト秘話】「監督、獲れました!」巨人スカウト野間口貴彦が涙で報告した、創価大・岸監督への恩返し
text by
高木遊Yu Takagi
photograph byYu Takagi
posted2021/01/24 17:01
巨人にドラフト7位指名された創価大・主将の萩原哲(中央左)。2人の期待を背負ってプロの世界へ飛び込んでいく(1人挟んで右にいるのが育成11位指名された保科広一)
野間口が去った創価大は、のちに日本ハムなどで活躍することになる左腕・八木智哉(現・中日スカウト)が台頭。八木は大学4年春に全日本大学野球選手権の大会記録となる1大会49奪三振を記録し4強入りに貢献。その秋には希望入団枠で日本ハムへ決めている。
一方の野間口も、社会人野球の強豪シダックスに拾われ、野村克也監督のもとでグングンと力を伸ばし、秋には自由獲得枠での巨人入団を勝ち取った。両者の和解はちょうどその年の春だ。岸監督は振り返る。
「準決勝を終えてベンチ裏から球場の通路へつながる階段を上がったところに野間口がポツンと待っていてね。どんなことを言ったかはハッキリ覚えてないけど、ポロっと厳しいこと言ったの。“俺から離れるのか、付いてくるのか”の勝負だったんだけど、彼は離れなかった。それが嬉しかった。だから“この子は後悔してるんだな。大事にしないといけないな”って思ったね。あれが無かったら、どうなっていたか。辞めたことはもういいの。辞めても勇気を持ってぶつかって来る子は大事にする」
野間口もまた、その再会を鮮明に記憶している。
「大学中退後は音信不通になるのが当然の中で、そこで許してくれたとは思わないけど、話を聞いてくれた。心の中で引っかかっていたものが取れました。大学を4カ月で辞めたとはいえ、(自分は)関西創価高校も出ていたので“切っても切れない関係”でもありましたから。感謝の気持ちはいろんな意味であります」
「野間口もいたら日本一になれたのに」
そこから野間口は毎年、創価大のグラウンドに出向いている。現役引退の報告も直々に伝えた。野間口も出席したという八木の結婚式では、岸監督が挨拶で「(八木に加え)野間口もいたら日本一になれたのに」とジョークを飛ばすなど、すっかり関係は良好なものになっていた。