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【ドラフト秘話】「監督、獲れました!」巨人スカウト野間口貴彦が涙で報告した、創価大・岸監督への恩返し 

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高木遊

高木遊Yu Takagi

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posted2021/01/24 17:01

【ドラフト秘話】「監督、獲れました!」巨人スカウト野間口貴彦が涙で報告した、創価大・岸監督への恩返し<Number Web> photograph by Yu Takagi

巨人にドラフト7位指名された創価大・主将の萩原哲(中央左)。2人の期待を背負ってプロの世界へ飛び込んでいく(1人挟んで右にいるのが育成11位指名された保科広一)

 スカウトとなった野間口は、一昨年にプロ志望届を出した杉山晃基(ヤクルト)、望月大希(日本ハム)、小孫竜二(鷺宮製作所)、山形堅心(TDK)ら創価大の面々を調査。チーム事情や他球団の動向もあって獲得には至らなかったが、20年は萩原と保科を追いかけた。

「高い身体能力が魅力で大化けする可能性がある」と期待を寄せてきた身長187cmの保科とともに、他球団からも熱視線を送られる萩原を「肩の強さが魅力で、打撃も強く振れる」と高く評価していた。

 しかし、ドラフトイヤーの昨年、萩原の評価が思うように上がらなかった。春先は腰痛により休養に充て、照準を合わせていた春季リーグも新型コロナ禍で開催中止に。秋は無事リーグ戦が行われたが、打率.268と思うような結果を残せず、スローイングもやや安定感を欠いてしまった。加えて、ドラフト直前のリーグ戦最終節1回戦のクロスプレーで左手親指の靭帯を断裂。最後のアピールの場も不運によって閉ざされていた。

 それでも野間口は「投手目線で“こういう捕手に投げたいな”という雰囲気があって、投手の個性を生かしたリードができる」と、数字だけでは表せない、長く見てきたからこそわかる捕手としての総合力や人間性を買った。巨人だけにかかわらず、「プロの世界に入って欲しい」という思い入れすらあったと振り返る。

 ドラフト当日、スカウトにとっても首脳陣の判断を待つのみ。野間口も固唾を呑んで見守る中、萩原の名前が呼ばれたのは支配下指名が終盤に差し掛かった7位。諦めかけたところでの指名だっただけに、嬉しさのあまり、電話口で声を震わせたのだった。

ベンチで声を張り続けた萩原

 秋の大学日本一を決める明治神宮大会が春の全日本大学野球選手権に続いて中止となったため、リーグ戦を優勝した創価大にとって関東地区大学野球選手権が昨年最後の大会となった。将来を見据えて早期の手術に踏み切った萩原はベンチから声を張り続けた。当然、悔しい気持ちもあっただろうが、そんな姿を微塵も見せずに主将の役割に徹したのだった。

 チームは決勝戦では惜しくも敗れたが、代役で捕手を務めた同期の藤原魁を中心とした攻守が噛み合っての準優勝に「すごいとしか言いようがないです。藤原は良いライバルで切磋琢磨してきたので嬉しかった。最後に力を出し切っての準優勝に悔いはありません」と笑顔で話した。また、「これまでベンチから試合を見る機会も少なかったので、また違った見方ができました」とも話す表情はどこまでも爽やかだった。

 そんな萩原の人間性を誰よりも評価してきたのが1年春から正捕手を任せた岸監督と、獲得を推薦し続けた野間口に他ならない。

 2人の期待を背負う萩原は抱負を語った。

「(巨人は)捕手層の厚いチームですが、良いところをしっかり盗んで優勝に貢献したい。ドラフト上位の選手たちに負けないようにジェラシーを燃やしています」

 これからどんな飛躍を果たすのか。温かく見守る恩師とスカウトの深い愛情にも背中を押され、萩原は厳しいプロの世界へ羽ばたいていった。

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