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「東京では金メダルを!」「パリには選手生命すべてをかけて!」いまの日本人トップクライマーたちの熱い想い。
posted2021/01/29 11:00
text by
津金壱郎Ichiro Tsugane
photograph by
Ichiro Tsugane
薄明の空からポツリと落ちた冷たい雨粒は、競技後の表彰セレモニーが終わった頃から本格的な寒雨となって辺り一面を濡らした。まるで大会中は気丈に振る舞った選手たちの胸のつかえを洗い流すかのように――。
昨年末の12月26日・27日に、スポーツクライミングの『第3回コンバインドジャパンカップ(以下CJC)』が愛媛県西条市で開催された。1日目の予選はスピード、ボルダリング、リードの3種目を行い上位8選手が決勝に進出。2日目の決勝でふたたび3種目に挑んで雌雄を決した。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあって、2019年の世界選手権で東京五輪の男女代表の1人目になった楢﨑智亜と野口啓代、昨年12月12日に出されたスポーツ仲裁裁判所(CAS)の裁定で東京五輪の男子2人目の代表になった原田海などが欠場するなか、男子は10選手、女子は16選手が出場した。
そのなかで注目を集めたのが、スポーツ仲裁裁判所の裁定によって、東京五輪の女子代表の2人目に決まった野中生萌と、それによって東京五輪の道が絶たれた藤井快と森秋彩だった。
「何も考えないようにしました。この大会に集中して、どう競技に臨むかにフォーカスするようにしていました」
男女2人目の五輪代表に決まってから約2週間で迎えた今大会までの心境を、こう明かした野中は、東京五輪を目指して積み重ねてきたトレーニングの成果を存分に発揮した。
野中生萌「金メダルを獲ることにフォーカス」
予選を1位通過すると、決勝でもスピード2位、ボルダリング1位、リード1位。CJC2連覇を決めて、「2連覇を目標にしてきたのでうれしい」と笑顔をこぼした。
「オリンピックに向けてコンバインドの経験を積めたのがよかったです。スピードは最近の練習では頻繁に8秒台前半を出せていて。この大会ではムラのない安定したタイムを出すことをテーマに臨んだので、予選はそこをクリアできたかなと思います」
野中がコンバインドの試合に臨むのは2019年10月のチャイナ・オープン以来。東京五輪の開催は夏のため、今大会とは気象コンディションは真逆になるが、それでも自身に課したテーマでは収穫と改善点を手にできたことに充実の表情を見せた。そして、決意を新たにこう語るのであった。
「東京五輪に向けた経験値になりましたし、この経験を生かして目標の東京五輪での金メダルを獲ることにフォーカスしてやっていきたいと思います」