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【父の教え】中村憲剛の心に3つの家訓「感謝・感激・感動」 天皇杯優勝で引退、漫画超えのエンディング
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2021/01/05 11:04
出場こそなかったが、中村憲剛は現役ラストゲームを天皇杯優勝という形で締めくくった
「感謝・感激・感動」
この3つは、中村家に伝わる家訓だという。聞いた瞬間は「家訓だったら、もっと早く言ってよ」と思ったそうだが、言葉自体は中村の心の中にストンと入ってきたものだった。
見に来た人を感動させるプレーを
常日頃から感謝の気持ちを持って、プレーを見に来た人を感動させたい。
このことを心に刻んで走り出したプロサッカー生活だった。そのマインドを持っていけば、選手として間違ったことにはならないからである。そう考えれば、18年間の走りを終える間際、ことあるごとにそれを口にし続けるのは、ごく自然なことだったと言える。
膝をケガした試合が“現役最後”は嫌だった
そしてラストイヤーと決断して臨んでいた2020シーズン。
振り返ってみると、そのスタートは左膝前十字靭帯損傷から復活した姿を見せることを強く誓って始まっていた。開幕直前には、味わったことのないような不安と向き合いながらも、その思いをこう明かしてくれている。
「この年で前十字靭帯をやる選手もいないでしょ。もちろん、そこから復活する選手もいない。その時点でチャレンジのしがいがある。『もうやめていいんじゃない?』という声もあった。でも、それだとあの広島戦が自分の最後の試合になる。それは嫌だった。あれを最後にはしたくない。しっかりと自分の足を戻して等々力に戻る」
そんな力強い決意でピッチに戻ってきてからの日々は、やはり奇跡の物語を見るようですらあった。約10カ月ぶりに戻ってきた8月29日の清水エスパルス戦で、自らの復帰を祝うゴールを記録。さらに40歳の誕生日となった10月31日のFC東京戦では、初めてのバースデーゴールも決めた。
そして、その翌日に発表した、電撃的とも言える今シーズン限りでの現役引退。
その後、チームは圧倒的な強さでリーグ制覇を成し遂げる。復活する姿をしっかりと示して幕引きしようとしていた背番号14の物語は、史上最速優勝という歴史的な偉業で報われることとなった。
漫画やドラマであればここで大円団、エンディングを迎えているところである。
だが、この物語はそこで終わらなかった。