その後に行われたオンライン会見では、質疑応答を終えた去り際に、画面の向こうにいるこちら側に向かって、こんな感謝のメッセージを語りかけている。

熱のこもった記事あってこそ注目を集める

「中村憲剛をいろんなところで扱っていただいて、メディアの皆さんにも感謝したいと思っています。やはり皆さんが書いたり、出すものをいろんなお客さんやサポーターは見るわけで、僕らがそれ（発信）をやっているだけではいけない。皆さんが熱のある記事を書いてくれて初めていろんな人の目に入る……戦友という風に僕は思っています。メディアの皆さんには感謝しかないですし、僕をここまで育ててくれたのもメディアの皆さんだと思っています」

　選手はメディアの向こう側にいるファンに向かって思いを口にするが、この時の彼はそれを届けるメディアにも感謝の言葉を伝えてくれた。それもお決まりの言葉ではなく、自分の中で吟味した上で磨き上げた言葉を丁寧に発している。メディアに向けたものなので表には出ないものだが、心がこもっている言葉は選手の声を受け取り、伝える立場のこちら側にもはっきりと伝わるものだ。

「なんでもない大学生を拾ってくれて」

　その6日後。

　等々力競技場での最後の公式戦となった天皇杯準決勝・ブラウブリッツ秋田戦。試合後は、18年にわたって慣れ親しんだその場所で、川崎フロンターレというクラブに対する感謝の思いを告げている。

「なんでもない大学生を拾ってくれて、18年間育ててくれた感謝しかありません」

　中村憲剛という選手が、これだけ感謝の気持ちを口にし続けていたのは理由がある。

　さかのぼること18年前。

J2時代の中村憲剛(c)Getty Images

　当時まだJ2だった川崎フロンターレの入団が決まり、プロサッカー選手として生きていくことが決まった際、父親・憲英さんからこんな言葉を授けられたのだ。

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