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粘りが凄い…区間賞ゼロでも往路2位の東洋大 「才能がない」4区・吉川洋次が4年間走り続けたワケ【箱根駅伝】
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byYuki Suenaga
posted2021/01/02 21:15
4区を走った東洋大・吉川洋次には特別な思いがあった
「4年間で初めて親の前で泣きました」
箱根の4区は思い出深い。ルーキーイヤーの年、初の箱根で4区を走り、吉川は区間記録更新の区間2位と華々しいデビューを飾っている。だが、3年目以降は度重なるケガに泣かされ、苦しい日々を送ってきた。
とくに昨年はコロナ禍もあり、先が見通せない状況下で、自身を見失いかけたこともあった。帰省を余儀なくされたとき、吉川は親の前でこんな弱音を吐いている。
「自分は元々才能があるわけでもないですし、正直、長距離が向いているとも思わないです。で、自分は努力することしかできないので、1年生の時からこつこつやってきたんですけど、それが報われない努力というか……。頑張っても結果が出ない、努力してもムダ(ケガ)になることが多くて、かなり苦しかった。それをコロナ禍で実家に帰ったときに親にぶつけて、4年間で初めて親の前で泣きました」
息子の泣き言を親は正面から受け止めた。安易な同調はせず、愛情を込めて叱ったという。
「そうやって親が背中を押してくれたので、今度は僕がその恩返しをしたい。今回の結果はそこまで満足できるものではないですけど、まだ復路が残っているので、あとは全力でサポートしたい。最後はしっかりと両親の顔を見て、『4年間ありがとう』と言えるようにしたいです」
吉川が粘ってつないだ襷は、希望が見える位置で復路につながった。
明日のカギを握るのはエースの西山和弥
吉川を始めとする4年生への想いを訊くと、酒井は賛辞を惜しまなかった。
「決して評価は高くないですけど、粘り強い、崩れない、そういった東洋らしい走りを今年のチームはトレーニングから積み上げてきました。吉川も今日は区間6位の走りでしたけど、十分に今までの悔しさを晴らすような走りをしてくれたと思ってます」
そして、明日出場予定の選手たちにこう期待を込める。
「良い経験を積めば、これまで以上の強い鉄紺を作ることができる。自信を持って大丈夫だぞと、学生たちには話をします」
明日の復路も未知数の戦力が名をつらねる。その中で鍵を握るのは、吉川と同じく、ここ2年大事なレースで結果の出ていないエースの西山和弥(4年)になるだろう。
1年、2年と連続で区間賞を獲得した西山が、4年生最後の駅伝で再び輝けるか。前回1区14位に沈んだエースの、怯まない走りに期待したい。
往路で好走した1~3年生、そして5000m高校記録保持者・石田洸介が入学する来季は大学駅伝界の主役にもなりうる。明日の復路の走りは現チームの正念場であり、未来への架け橋でもある。