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【貴重な1枚】18歳の美少年・マラドーナ、見たことある?「なぜ私は41年前に“神の子”を撮影できたか」
text by
後藤茂仁(Number編集部)Shigehito Goto
photograph byYoshiyuki Kurai
posted2020/12/23 17:06
日本人カメラマン、倉井美行が撮影したボカ時代のマラドーナ。その倉井が撮った18歳のマラドーナとは?
当時の倉井は75年からドイツのデュッセルドルフに住み、サッカーをはじめ自転車競技など、さまざまなスポーツを撮影していた。「語学は今も得意ではなくて」と本人は語るが、撮影を重ねるなかで出会ったヨーロッパのカメラマンの友人たちと拙いながらもコミュニケーションをとる中で、マラドーナが特別な選手だということは、彼らの話しぶりからも感じたという。
そんななか、ウルグアイで開催されるワールドユース南米予選にマラドーナが出ることを知った倉井は、撮影のため現地に向かうことをすぐに決意する。開催地のモンテビデオに到着し会場のスタジアムで交渉すると、ホテルと同様にスタッフは親切で、すぐに撮影の許可は出してもらえた。
「日本人カメラマンは当然自分一人でしたから、遠くからサッカーを撮りにきた、ということで親切にしてくれたんでしょうね」
穏やかな顔でマラドーナはカメラを見つめた
現地で数試合を撮影したが、マラドーナだけが目当てで対戦相手についての印象は今はほぼ残ってないという。先にあげた表紙の写真は79年1月25日、最終ラウンドのアルゼンチン対パラグアイ戦の試合前に撮影したものだった。
「あの時は試合前の国歌斉唱や集合写真撮影の時に、カメラマンはピッチの中まで入って選手の目の前で撮影ができたんです。逆に試合後は、興奮した一般客がピッチに入ってきちゃうので、選手は逃げるようにすぐ帰ってしまう(笑)。だから試合前が一番近くで撮れるシャッターチャンス。とにかくマラドーナの前で彼一人に狙いを定めて、目線がこちらに向くのを待っていました」
1月は南半球では夏。暑さもあって夕方からの試合開始だったため、ピッチには試合前から既に柔らかな夕陽が差し込み始めていた。
「夕陽を浴びながら、彼がとても穏やかな顔で私のカメラを見たのを覚えています。国歌斉唱のときからずっと、しっかりと胸を張って立つ姿は他の選手にはない美しさと貫禄が既にありました。間近でカメラを向けても嫌な顔ひとつしない。夢中で撮りましたね。」
「ずんぐりむっくりなのに……」
試合中のマラドーナもまた、やはり評判通りのすごさだった。