國學院大學は万全の「山」対策。帝京大学が「育成力」で越えたい総合4位の壁。

　山を制するものは箱根駅伝を制す――。

　使い古された格言かもしれないが、いまなおこの言葉は生きている。山上りの5区と山下りの6区は特殊区間と呼ばれており、大きなタイム差が生まれやすい。天国と地獄の分かれ道になることも多い。

　指揮官として10度目の箱根駅伝を迎える國學院大學の前田康弘監督は、山の酸いも甘いもかみ分けてきた。3大会前（第94回大会）は5区でシード圏内から脱落して総合14位に。前々回は山で流れをつかんで総合7位、前回も特殊区間で勢いをつけて総合3位に輝き、國學院大の歴史を新たにつくった。

「山があること。10人で走ること。これが箱根駅伝の魅力であり、面白さでもあります」

　指揮官の表情には余裕が窺える。早い段階から山の準備をしており、隠し立てすることもない。

「6区でタイムを稼ぎたいと思っています。ここがひとつのポイント」

　期待を寄せるのは前回、初めて山下りの6区に挑戦し、区間8位と奮闘した島﨑慎愛。3年生となり、自慢のスピードに磨きをかけ、課題のスタミナも強化した。全日本大学駅伝の1区では区間新記録の4位。あらためて成長したことを証明した。箱根駅伝に向けて、自信を深めている。平地よりも力を発揮できるのが下り坂。山が多い群馬県で育ち、中学生の頃から坂道を駆け下りるのが得意だった。

「下りを走るのが楽しいんです。恐怖心はありません。とりあえず、足をぐんぐん回す。昔からずっと箱根の山を下りたいと思っていました」

山上りに期待の“ドンちゃん”

　好きこそものの上手なれである。コースはほぼ完璧に頭に入っている。タイムを短縮すべきポイントもチェック済み。苦手な上り坂がある序盤の対策も抜かりなし。昨年度の59分01秒よりも30秒は縮めるつもりだ。目標タイムは58分30秒。流れを変えるような積極的な走りで、区間3位以内を目指す。

「今回は攻めの駒になりたい」

　前田監督は本人の強気なコメントを聞き、満足そうな笑みを浮かべていた。

「かっこいいことを言いますね。島﨑は楽しみ。確実に強い。あいつは行きますよ」

　肝心の山上りも、早くから目処はつけていた。2大会連続で5区を担当したエース、浦野雄平（現・富士通）の後継には、前回のアンカー殿地琢朗（3年）を据える算段を立てる。昨季に続き、夏合宿で実施した山上りのトライアルでは、ドンちゃんの愛称で親しまれる殿地がチーム内で断トツのタイムを叩き出したという。

　前田監督も手応えを感じており、軽快なジョークまで飛ばす。

「もうドンちゃん騒ぎでしたよ」

　突如として山上りの適性を持った人材が現れたわけではない。3年目にようやく開花したと言ったほうがいいだろう。殿地は入学して間もない頃から上りの練習に参加していたのだ。本人の強い希望を聞き入れた前田監督はしみじみと振り返る。

「最初は全然ダメでした。1年生から何度も上りの練習をさせましたけど、タイムも出なくて……。『口ほどにもない』と本人に厳しく言ったこともありましたが、それでも、あきらめなかった。そうしたら、3年目でぐんと来ました。へこたれないメンタルは長所です」

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