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2度のダウンから大逆転のKO勝ち 中谷正義が聖地ベガスで“年間最高レベル”の劇的試合を生むまで 

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杉浦大介

杉浦大介Daisuke Sugiura

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posted2020/12/15 11:02

2度のダウンから大逆転のKO勝ち 中谷正義が聖地ベガスで“年間最高レベル”の劇的試合を生むまで<Number Web> photograph by Getty Images

中谷正義(帝拳)がフェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)に9回TKO勝ち。序盤に2度のダウンを奪われながら、終盤に逆に2度のダウンを奪い返すというドラマチックな大激闘だった

30歳の初黒星で一度は引退を決断するも……

 中谷がアメリカの舞台で世界のトップに肉薄したのはこれが初めてではない。

 昨年7月19日、メリーランド州のリングで当時世界最高級のプロスペクト(有望株)と目されたテオフィモ・ロペス(アメリカ)と対戦し、善戦したものの判定負け。3人のジャッジは118-110, 118-110, 119-109と大差をつけたが、実際にはほとんど差がない内容だった。初めての苦戦を味わったロペスは試合後、エレベーターの中で結婚したばかりの夫人の肩に顔を押し付けて泣き崩れていたほどだった。

 そんな惜しい敗戦から約18カ月――。再び全米に名を知られたプロスペクトと対戦した今回の試合は、中谷にとってもう絶対に負けられない一戦だった。

 この約1年半の間に、中谷も多くを経験した。ロペス戦では実力者とあれだけいい試合をしておきながら、30歳という節目の年齢で喫した初黒星後に一度は引退を発表。それでもやはり、新しい生活へとすぐに気持ちを切り替えられなかったのだという。近畿大学の先輩でもある石田順裕さん(元WBA世界スーパーウェルター級暫定王者)からの「まだまだチャンスはあるよ。30で辞めるのも、35、36、37で辞めるのも、そんなに変わらないぞ」という助言もあって、復帰を決意した。

 カムバックにあたり、名門帝拳ジムへと移籍した。新しい環境を得たのだから、結果を出さなければいけない。2連敗となればキャリアに大打撃となるだけに、「負けることが怖い気持ちもあります」とプレッシャーも強く感じていた。しかも、今回はラスベガスのバブルという不便な環境で、チーフトレーナーは諸事情で同行できないという厳しい条件。そんな状況下でも力を発揮し、全米のファンを興奮させる見事なKO勝利を飾った意味の大きさは言うまでもあるまい。

「もう1回、ロペスにチャレンジしたい」

「中谷のハートと心身両面のタフネスはすごかった。この劇的な逆転劇で、ボクサーに限らず、苦しい状況にいる人たちにインスピレーションを与えたんじゃないかな」

 試合後、ESPNのテレビ解説者を務めた元2階級制覇王者ティム・ブラッドリーはそう述べていた。このエンターテイメント性抜群の一戦は、アメリカのスポーツファンへの一足早いクリスマスプレゼントとなった。それと同時に、“面白い試合での勝利”という最高の結果を手にした中谷の行く手には、新たな道が開けようとしている。

【次ページ】 生粋のファイター・中谷正義

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