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2度のダウンから大逆転のKO勝ち 中谷正義が聖地ベガスで“年間最高レベル”の劇的試合を生むまで
posted2020/12/15 11:02
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph by
Getty Images
波乱に満ちた2020年も残り少なくなったこの時期に、新たな「The Fight of the Year(年間最高試合)」の候補が生まれた。ボクシングの聖地と呼ばれるラスベガスでも滅多にお目にかかれないような大逆転劇だった。
現地12月12日、MGMグランドのカンファレンス・センターにある通称“バブル”で行われたWBOインターコンチネンタル・ライト級王座決定戦で、中谷正義(帝拳)がフェリックス・ベルデホ(プエルトリコ)に9回TKO勝ち。序盤に2度のダウンを奪われながら、終盤に逆に2度のダウンを奪い返すというドラマチックな大激闘だった。
「やっぱりいい選手ですよね、ベルデホ。パンチ強かったです。前半ちょっと硬いところ、当てにいきたいところで上手いこと合わされました」
まるでハリウッド映画のような逆転劇へ
中谷本人がそう振り返った通り、まだ身体が温まりきらなかった初回と4回、抜群のバネとスピードを誇るベルデホの右を浴びて倒された。この日まで27勝(17KO)1敗のプエルトリカンは鮮やかなカウンターで数多くのKOを生み出してきた選手。どちらも綺麗に急所を射抜かれただけに、これまでダウン経験がなかった中谷も致命的なダメージを受けても仕方のないところだっただろう。
しかし、驚くほどのタフネスを誇る31歳は、派手なダウンを喫した後も何事もなかったかのように前に出る。リングサイドで見守った帝拳ジムの本田明彦会長は一時はタオル投入も考えたというが、中谷はそんな懸念を吹き飛ばすように左右のパンチを繰り出していった。5回ごろから徐々にペースを掴み始めると、7回には強烈な右をヒットして攻勢に転じた。相手のスタミナ切れも相まって、まるでハリウッド映画のような逆転劇へのシナリオが整えられていった。
クライマックスは9回だった。中谷の左ジャブがカウンター気味に決まると、すでに疲労とダメージを蓄積させていたプエルトリコのスター候補はよろよろと後退しながらダウン。立ち上がったものの、足元が定まらないベルデホに強烈な右が決まり、完全なKOとなって試合は終わった。
遅咲きの日本人ファイターが勝利を決めた瞬間、リングサイドに陣取った関係者が色めきたったのは言うまでもない。この時点までの採点は78-72が2人に77-74と、3者ともにベルデホがリードしていた。興行を主催したボブ・アラム率いるトップランク社にとって、もともと興行価値の高いベルデホの勝利を計算して組んだファイトだった。百戦錬磨のエグゼクティブたちの表情には、計算が狂った無念と、年に数度の素晴らしい試合を目撃できた興奮の両方が浮かんでいるように見えた。