情熱のセカンドキャリアBACK NUMBER
「うんちをもらえないだろうか?」元浦和レッズ鈴木啓太がラグビー松島幸太朗に頼んだワケ
posted2020/12/13 17:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Takuya Sugiyama
東京・中央区にある共同オフィスに、その人はいた。
周りのスタッフと一緒に席を並べて、Mac Bookのキーボードをよどみないリズムで打ち込んでいる。肩書きはAuB(オーブ)株式会社代表取締役。浦和レッズのレジェンド、あの鈴木啓太である。
泥臭く戦ってきたピッチでの印象とは随分と違う。ソフトな雰囲気を漂わせ、もうずっと前からこの世界にいる新世代の若手実業家のような……。いやいや、それは外見だけで、スタッフたちと同じ温度で働く姿からはやはり現役時代が重なってくる。組織(チーム)をうまく回していこうとするリーダーは、フィールドを変えても「水を運ぶ人」であることには変わりない。
集団で下痢に見舞われても鈴木は……
現役最後のシーズンとなった2015年10月に腸内環境解析ベンチャーのAuBをスタートアップして5年。アスリートの便を1400検体以上集め、4年掛けて研究することによってアスリート特有の特徴を発見し、2019年にはフードテック事業に参入して腸内環境を整えるサプリメントとして「AuB BASE」の商品化に成功。今年10月にはボディメイクをサポートするプロテイン製品「AuB MAKE」を発表している。
こういった腸内細菌関連製品開発事業のみならず、アスリートに対するコンディショニングサポート事業やバイオマーカー開発事業を展開しており、経営は軌道に乗りつつある。だがここまで来るのに、順風満帆だったわけではない。むしろ苦労の連続であった。サッカーで培った経験があったからこそ、彼は踏ん張れたのかもしれない。
現役時代から腸内環境に目を向けてきた。
調理師の母親から「人間は腸が大切。常に自分の腸の状態を見ておきなさい」と教えられてきたという。便のチェックはもちろんのこと、食後に温かい緑茶を飲む習慣や腹巻きの着用など“お腹を大切にする”ことを意識した。
2004年3月、アテネ五輪最終予選UAEラウンドでU-23代表チームが集団で下痢に見舞われた際も鈴木のコンディションは問題なかった。腸内環境の整備との相関関係は実際には分からないとはいえ、その効果が無関係とも言い切れないとも感じた。
鈴木は言う。