マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
【都市対抗野球】活動終了の三菱重工広島、「野球部」という配属先を卒業する“ある選手”
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byKYODO
posted2020/12/01 18:40
都市対抗2回戦で敗れ、創部75年の活動を終える三菱重工広島
「何度か熊本まで見に行きましたが、グラウンドにお父さんがいっつも練習見に来ていてね。お母さんと幼稚園を経営してらして、立派なご両親で」
日本福祉大で2年生からレギュラーショートに抜擢された渕上大地選手。
体を張った懸命なフィールディングで、チームを引っ張った。
「ご両親はリーグ戦にも、熊本から夜行バスに乗って、わざわざ名古屋まで試合を見に来てくださって。一度なんてバスの予約が取れなかったって、軽自動車で夜通し走って熊本からいらした時なんて、大地より僕のほうが涙が出そうになってしまって……」
「これから飛行機で帰ります」
今大会、日本製鉄鹿島との都市対抗1回戦にも、スタンドにご両親の姿があった。
渕上は、今季を最後に卒業することを決めていた。
都市対抗の常連チームを向こうにまわして、打ち合いの混戦。1点差に追い上げられながら、最後は追撃を振りきっての2回戦進出だ。残念ながら渕上に出場機会はまわってこなかった。
次の試合で、大地君の姿、見られるかもしれませんね。
そう声をかけたら、
「なかなかそうもいかんで……これから飛行機で帰ります」
と、ご両親そろって、いつもの温和な笑顔で出口に向かって行かれた。
子供さんをたくさんあずかっているお仕事だけに、「東京滞在時間」は最小限にしたい事情もあったようだ。