ラストマッチBACK NUMBER
<現役最終戦に秘めた思い(7)>
明神智和「最後だからこそ普段通りで」
posted2020/12/02 07:00
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
J.LEAGUE
2002年日韓W杯で日本初の16強進出に貢献した“名脇役”が、昨季を最後に、静かにユニホームを脱いだ。契約延長のオファーがあったにもかかわらず――。
2019.12.8
J3リーグ 第34節
成績
長野 1-0 熊本(前半0-0 後半0-0)
◇
師走にふさわしい冷え込みとなったその日、明神智和は本拠地、長野Uスタジアムに入ると、いつものようにドレッシングルームの扉を開けた。
天井に蛍光灯が二列に並び、ラバー貼りのフロアは戦う心を掻き立てるような真紅に染められている。部屋の両側に並んだロッカー右側の一番奥、自分の“指定席”に着くと、そこに置いてあるものに気づいた。
このチームのキャプテンマークであった。
《監督がそうしてくれたんです。うれしかったんですが、僕は普段キャプテンではないので……最後だからといって、特別な空気にはしたくなかったんです》
日本プロサッカー3部リーグの長野パルセイロは、ロアッソ熊本とのシーズン最終戦を迎えていた。それは同時に、1週間前に引退を発表した明神にとってのラストゲームだった。
キャプテンマークを手に取った明神は、自分の気持ちを伝えるために、監督の横山雄次のもとへ向かった。
「いや、ダメだ。お前にやってもらいたい」
横山からは逆に突き返されたが、何度か押し問答をした末に何とかマークを返上することができた。
《最後の試合だからこそ、これまで通り、目の前の試合に勝つためだけに取り組みたかった。勝つために求められる選手でありたかったんです》