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ソフトボール・上野由岐子が北京以来の五輪へ メッタ打ちにあっても「ブレずに」進む女王道
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byKyodo News
posted2020/11/21 17:00
東京五輪に向けた新デザインのユニフォームに身を包んだ上野は、宇津木監督の言葉に呼応するかのように明るい笑顔を見せた
4回6失点…滅多打ちにあったトヨタ自動車戦
ソフトボールの未来と大局を見つめられるのは大ベテランならではだが、今季の日本リーグでは予想もしない苦しみを味わった。
コロナ禍により、当初の予定より約5カ月遅れの9月上旬に行なわれたリーグ後半開幕戦のトヨタ自動車戦では、先発してまさかの4回6失点と滅多打ちされた。その後も波に乗れず、レギュラーシーズンの防御率はリーグ8位の2.26。3勝2敗にとどまった。
ただ、そこから2カ月後にあった決勝トーナメントではしっかりと調子を上げ、帳尻を合わせた。
「開幕戦が自分の想像と全然違う結果になって、逆にすごく考えさせられたし、そのおかげでたくさんのことを変えることができた。試合の入り方や配球、投球スタイルなどほぼすべてを一新させました」
その成果が結果に表れたのが、ホンダとの決勝戦だ。ランナーを背負ったときに見せた勝負強さはさすがで、最終7回も走者を出しながら最後は2者連続三振。終わってみれば14奪三振の完封勝利で、昨年に続く連覇を飾った。
「選手たちのためには、違う道を探してあげないと」
しり上がりに調子を上げた流れで迎えた代表合宿。上野は1年延期された東京五輪については、「やるやらないを決めるのは私たちじゃない。しっかり準備をしていくだけ」としつつ、「合宿をやるからには五輪に向けて進まなければいけない」と力強い口調で言った。
一方で、今回の合宿ではデリケートな思いを聞く場面もあった。
まず、オンライン取材に最初に登場した宇津木監督は、五輪の1年延期が決まったときの気持ちを聞かれ、「正直に言うと、4年間準備してきたものを一瞬ですべてなくした気分でした」とショックを受けた当時を振り返った。だが、コロナ禍の中で春夏秋を過ごしてきたことで心境に変化が生じたという。宇津木監督は東京五輪が中止になった場合の選手たちへの影響を念頭に置くような口ぶりで、こう語った。
「この4年間は頭の中もすべて(ソフトボール)でしたが、なにせこのコロナ禍ですから。この道しかないと思ったら、今まで一生懸命やってきたことは何だろうと、自信を失ってしまうかもしれない。選手たちのことを考えたら、違う道を探してあげないといけない」
現実を鑑み、宇津木監督は心の備えについて一歩踏み込んだ発言をした。では、上野はどう思っているのだろう。宇津木監督のコメントについての感想を求めると、38歳のレジェンドはしばし言葉を選んでから、毅然とした表情でこう語った。