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将棋界イチのアーセナルファン・広瀬章人八段に聞く「アーセナル好きのきっかけは?」「毎週試合見てますか?」
text by
君島俊介Shunsuke Kimishima
photograph byShunsuke Kimishima
posted2020/11/16 11:01
将棋界イチのアーセナルファン・広瀬章人八段(写真は2018年度の棋王戦)
広瀬 シーンはちょっと覚えていないですね。無敗優勝がどれだけすごいか、当時はわかっていなかったんです。そういうこともあるのかと思ったくらいで。いまみたいにネットを手軽に使える環境ではなかったですし。当時はユナイテッドがいちばんのライバルだと素人なりに思っていましたね。
――ファンとして、情報を共有できる仲間がいなくて孤独ではなかったですか。
広瀬 孤独でした。将棋関係者でサッカーが好きな方は多いのですが、いまもアーセナルファンはほとんどいないです。知る限り棋士では私だけですね。
――現在も周りに話す相手はいないですか。
広瀬 ただ、海外サッカー好きはいて、アーセナルの話というよりはプレミアリーグの話になります。トップ棋士だと渡辺明名人や佐藤天彦九段と話をしますね。
渡辺名人とヨーロッパサッカーを現地観戦して“危ない目”に
――時代を進めます。渡辺名人とヨーロッパサッカーを見に行ったことがあるそうですね。結構危ない目にもあったそうですが……。
広瀬 それは2015年の春に渡辺名人と将棋関係者の方と3人で行ったときのことですね。危ない目にあったのはイタリアでのトリノ・ダービー(ユベントス対トリノ)です。トリノのホームスタジアムだったんです。チケットはホームのトリノ側のものだったのですが、われわれが悪かったのか現地の案内表示がよくないのか、全然指定の場所が見つからないんです。で、さまよいつつ歩いていたら、たまたまアウェーのユーベ側に着いてしまって。そうしたら、同行の将棋関係者の方が「私はここにします。絶対に動きません」と言うんです。渡辺明名人が「危ないからやめましょう」といっても「絶対に動きません」と。
結局、流れでアウェー席に着くことになって。試合は先制されたトリノが2点返す展開だったんですけど、1点入るたびにユーベサポーターが野次を飛ばしたり、網越しですけどトリノ側も挑発したりして。発煙筒もバンバン出てきて……。
渡辺名人は警戒して常に後ろを振り返っていましたね。そうそう、前半の半ばにピルロがフリーキックを直接決めたんです。自分はそれを見たかったという気持ちでしたけど、その瞬間に騒ぐ観客たちと、渡辺名人の「ヤバい、ヤバい」と後ろを振り返る構図が微笑ましかったですね。自分はそこまで危ないと思っていなかったんですけど、渡辺名人からは「広瀬さんはおおらかだ」といわれました。
――そのときの観戦はその1試合だけですか。