Number ExBACK NUMBER
「1時間以上眠れない」過酷さ… 地球4周目に向かう53歳白石康次郎に訊く“海上2000時間”の孤独とは
text by
占部哲也(東京中日スポーツ)Tetsuya Urabe
photograph byAFLO
posted2020/11/07 20:00
単独無寄港無補給の世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」に再挑戦する白石康次郎。約2000時間を掛けて完走すればアジア人初の快挙だ
オレンジジュースの酸味がいい?
1994年に単独無寄港無補給での世界一周を、当時史上最年少となる26歳で達成した裏でも、2度の失敗があった。3度目の正直でやっとたぐり寄せた最年少記録だった。なぜ、心が折れないのか。なぜ、何度も立ち上がれるのか。なぜ、過酷な領域に足を踏み入れるのか。コロナ禍の自粛期間で世の中が刺々しかった今春。海上の2000時間を1人で過ごす白石に「孤独」について聞いた時、少し分かった気がした。
「物理的にはたった1人で誰にも会わないで世界一周する。この競技は現実的に生き死にがある。それは他のスポーツとは違うところ。非常に過酷で、1時間以上眠れないし、自分は最初の1週間は船酔いもする。ほぼ24時間酔っている状態。地獄ですよ。でも、仕事をするためには何か胃に入れないといけないから気付いたの。オレンジジュースの酸味がいいって。しかも、戻すから2度楽しめる。200円分ね(笑)。宇宙に行くよりつらそうでしょ。でも、オレンジジュースを超えるものを見つけたから今回のレースでは試してみる。それが何か? 楽しみにしていて」
ジョークを挟みながら、一方で目の奥は徐々に真剣な色をおびていった。
「1人だから孤独」ではない
「大切なのは孤独をなぜ感じるかってこと。1人だから孤独、じゃないってことに気がついてほしい。じゃ、僕の中に何があるかって言ったら『夢』、『希望』がある。仲間と作った手塩にかけた愛艇がある。周りには同じ嵐を乗り越えたライバルがいる。港には家族が待っている。どこが、孤独ですか。希望に満ちあふれているよね」
「ヨットでは1人だから自分と対話するのよ。これまで本物の自分=魂とずれたことがない。本当にやりたいこと、好きなことからずれない。世界一周はオレがやりたいからやるの。誰かに褒められたいとか一切ないよ。だから、ずっと『ワクワク』している。そこから乖離すると『寂しい』ってサインが出る。その人は肩がぶつかるほど人がいる渋谷のスクランブル交差点にいても孤独だよね。孤独は人数で決まらない。だから、『思うように生きて、好きなことをやって生きて』って言うの。本当の自分に嘘をつかないで、自分の心のコンパスをよーく見てねって」