Number ExBACK NUMBER

「1時間以上眠れない」過酷さ… 地球4周目に向かう53歳白石康次郎に訊く“海上2000時間”の孤独とは 

text by

占部哲也(東京中日スポーツ)

占部哲也(東京中日スポーツ)Tetsuya Urabe

PROFILE

photograph byAFLO

posted2020/11/07 20:00

「1時間以上眠れない」過酷さ… 地球4周目に向かう53歳白石康次郎に訊く“海上2000時間”の孤独とは<Number Web> photograph by AFLO

単独無寄港無補給の世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」に再挑戦する白石康次郎。約2000時間を掛けて完走すればアジア人初の快挙だ

負けた時にしかできないこともある

 4年前――。さすがの白石も笑えなかった。アフリカ大陸の南端・南アフリカの喜望峰沖で悲劇は起きた。

「涙って本当に枯れるんだね」

 悲願の初出場を果たした前回大会は、マストが折れ、無念の途中棄権となった。日が昇る前。海に落ちれば死が待ち受ける危険な闇の中で、泣きじゃくりながら重さ400kgの折れたマストを応急処置、3日かけて自力で喜望峰の港に到着した。陸に上がるころ、もう流す涙は残っていなかった。しかし、ただでは起きぬ決心を固めていた。

「20年以上かけてやっとたどりついた大会だった。そりゃ~ね、泣きましたよ。でも、僕の目的は何? 『世の中を明るく元気にしたい』でしょ。勝とうが、負けようが目的は1つ。自分に何ができるか考えた。見事な負けっぷりを見せるしかない! 堂々と日本で船を見せようとね。負けた時にしかできないこともあるわけ」

資金集めも人間界の冒険

 スタッフもその思いに応えた。中古を改良したヨットは売れば5000万円以上になったが、3000万円かけてコンテナ船で日本に運んだ。“敗船”で四国や瀬戸内海を巡り、今大会のメインスポンサーとなる工作機械大手「DMG森精機」の森雅彦会長と出会った。

「華々しい成績じゃない。泣いて帰ってきたけど堂々として、みんなを“ヨットのF1マシン”に乗せるとすごく喜んでくれた。そうしたら、世界トップレベルの資金がやってきた! 資金集めも人間界の冒険。ヴァンデ・グローブは人間界と自然界、2つの冒険がある。それも醍醐味」

 陽気な声が自然と広がり、仲間を増やしていく。白石には不思議な魅力がある。3000万円の“投資”が約20億円とも言われる“軍資金”に化けた。涙を笑みに変えた。この男には悲劇も喜劇に変えてしまう力がある。

【次ページ】 オレンジジュースの酸味がいい?

BACK 1 2 3 4 NEXT
白石康次郎
ヴァンデ・グローブ

他競技の前後の記事

ページトップ