Number ExBACK NUMBER

「1時間以上眠れない」過酷さ… 地球4周目に向かう53歳白石康次郎に訊く“海上2000時間”の孤独とは 

text by

占部哲也(東京中日スポーツ)

占部哲也(東京中日スポーツ)Tetsuya Urabe

PROFILE

photograph byAFLO

posted2020/11/07 20:00

「1時間以上眠れない」過酷さ… 地球4周目に向かう53歳白石康次郎に訊く“海上2000時間”の孤独とは<Number Web> photograph by AFLO

単独無寄港無補給の世界一周ヨットレース「ヴァンデ・グローブ」に再挑戦する白石康次郎。約2000時間を掛けて完走すればアジア人初の快挙だ

地球一周をしてきた白石が感じる海の変化

 心を温め、ほぐし、素直な声に耳を澄ませば、人生の“航路”は自然と見えてくる。それを実践し、伝える。自身の53年生きた足跡で証明してきた。誰もやっていないことは、誰もできないことじゃない。人生は冒険。地球4周目に向け、新たな挑戦も自ら発案して用意した。レース中に海洋プラスチックを収拾する活動もする。世界中の海から集め、JAMSTEC(海洋研究開発機構)の分析、研究に役立ててもらうという。今回のアイデアは、白石の海との出会いが深く関わっている。

「鎌倉で育ったけど、昭和40年代の海は真っ黒だった。泳いだら体に油がつくの。今では信じられないかもしれないけどね。『あ~青い海が見たいな~。あの向こうに行きたいな~』って。それで、高校は水産高校に入った。マグロ船に乗ってグアム付近までいって初めてブルーの海を見た。あの感動は今でも忘れられないね。今は油じゃなくて、マイクロプラスチック。無味無臭で見えない。だから厄介。もしかしたら南極海まで来ているかもしれないし、そろそろ我々は急いだ方がいいかもしれない。その問題提起もしたい。26年前から始めて4回目の地球一周。その変化は長くやってきた自分にしか分からないでしょ。初めて一周したときの海図は、『南太平洋のここはよく分かってないから要注意』なんて書いてあったからね。グーグルアースなんてなくて未知の世界があったから。こんな人間なかなかいないでしょ」

完走の暁には仰天アイデアも?

 レースで競い合うだけではなく、“遊び場”としてお世話になった地球の掃除のお手伝いも一緒にする。ただ忘れてはいけないのは、ヴァンデ・グローブは完走率50%、過去8大会で計88人しか完走していない。これは、宇宙を経験した人よりも少ない数字であり、最も過酷なレースとも言われる所以だ。それでも、「世の中を明るく元気にしたい」をモットーとする53歳は屈託のない笑顔で言う。

「動力も風だけだし、燃料を使わず世界一周するからね。クリーン。面白いアイデアでしょ。でも、プロジェクト名がまだ浮かばないんだよね」

  ワクワク、ドキドキが表情、全身からあふれ出してくる。人気漫画『ドラゴンボール』の主人公・孫悟空といつも重なる。そして、目標のヴァンデ・グローブ完走が成し遂げられた後、日本で行う仰天アイデアもわいているという(突飛すぎて書けませんが……)。

  紹介したのは白石康次郎という男の氷山の一角ですが、少しは彼について知っていただけたでしょうか。さあ、11月8日スタート。今回はどんな冒険が待っていて、どんな報告をしてくれるのだろうか。ワクワク、ドキドキして待ちたい。そこにはきっと「世の中を明るく元気に」がたくさん詰まっているだろうから。

関連記事

BACK 1 2 3 4
白石康次郎
ヴァンデ・グローブ

他競技の前後の記事

ページトップ