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負けてないのに優勝を逃し…Bリーグ宇都宮が“理不尽”を乗り越えて「こだわる」ものとは?
posted2020/10/09 06:00
text by
ミムラユウスケYusuke Mimura
photograph by
B.LEAGUE
コロナによる自粛期間だって、ポジティブに過ごしてきた。
昨シーズンが打ち切りになってからダイエットにも取り組み、たくわえていた脂肪は5キロも燃やした。
だが、身体が軽くなっても記者会見場で椅子に腰かけるときのルーティーンは変わらないようだ。
「よいしょー」
小さくつぶやき、息を軽く吐いて席に着く。5年目のBリーグの開幕戦、琉球ゴールデンキングスとの試合が終わったあともそうだった。
宇都宮ブレックスの安斎竜三ヘッドコーチ(HC)は、腰を下ろしてから口を開いた。
「開幕戦をホームで戦えるということで、勝つことを一番重要な目標にしていました。内容はともかく、勝ち切れたということがすごく良かったですし、その勝った試合をファンの人に見せられたことが、なお良かったなと」
勝ったときにも内容が乏しければ満足した素振りは少しも見せない。そんな安斎HCが勝利にこだわったのには理由がある。
チケットを買って見に来てもらうからには
「こういう状況で、チケットの部分も……僕らはわかっています。そういうなかでもお金を払ってお客さんに見に来てもらうからには、勝利でお返しするというのが僕らの仕事としては当たり前のこと」
「チケットの部分」というのは、室内エンターテインメントにかかわる多くの者が直面している課題だ。
withコロナ時代にある今、観客を入れられるのはせいぜい会場のキャパシティーの半分程度まで。
かといって会場の使用料が大きく下がるわけではないし、エンタメ開催のコストはそれほど切り詰められるものでもない。チケット代金は上がらざるをえない。
4年前のBリーグ初年度からホームゲームのチケットの完売が続出していたこともあり、ブレックスはBリーグのクラブとしては初めて「ダイナミックプライシング」を導入した。これはチケットの需要に応じて値段が変動する制度で、Jリーグの試合や飛行機のチケットにも採用されているものだ。
人気のあるチケットの代金は高くなり、人気がそれほどでもないものは低くなる。市場原理のなかでは当然の施策で、新型コロナウィルスが流行する前から準備してきたシステムだ。
打ち切りになった昨シーズンの3月から半年以上の時を経て行なわれる開幕戦のチケットは必然的に高くなる。価格が上がるのはそれだけ多くの人がブレックスという存在を求めている証拠だが、苦しい状況をファンに強いてしまっているのも事実だ。
そんな現実から目を背けるのではない。そのような状況だからこそ、何ができるのかを考え、発信する。そこに安斎の誠実さは表れていた。
ただ、もう1つ、勝たないといけないと考える理由があった。