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『愛の不時着』で伸びやかに 本郷理華ら“お姉さん”世代が見せたスケート人生をかけた演技
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byManabu Takahashi
posted2020/10/02 11:02
フリーでは前半最後の3回転サルコウで1/4回転不足が付いた以外はノーミスの演技を見せた本郷
社会人2人が表彰台を死守した
ショートは昨季の継続の『レッド・バイオリン』。3回転ルッツを降り、流れのある演技で2位発進となる。そしてフリーは新プログラムの『ブラック・スワン』で、艶やかな黒のドレスに身を包んでリンクサイドに現れた。すると、自分の演技直前に滑っていた本郷に見入ってしまったという。
「試合のリンクに理華がいるのが嬉しくて。復帰して氷に乗り立ての時から見てきたので、ここまで状態を戻してきてすごいなあと思って。1歳上の、自分より年上の選手が同じ試合に出てくれることがとても心強かったです」
本郷の演技に手拍子を送りパワーをもらうと、2本の3回転ルッツを降りるなど、力の衰えない様子を見せた。演技構成点も、3項目で7点台をマークするなど、上々の評価だった。総合3位につけ、本郷とともに大学卒業組2人が表彰台を死守した。
「プログラムの初披露で、しっかり滑ることは出来たと思います。去年よりも点数が伸びていました。(試合直前の)怪我で練習不足もあったので、西日本、全日本に向けては滑り込んでいきたいです」
気高い美しさに、胸を打たれた
この2人に負けず、さらに印象的な演技を見せたのは25歳の大庭雅だ。中京大を卒業後、東海東京フィナンシャル・ホールディングスの社員となり、社会人アスリートとして競技を続けている。昨季は全日本選手権に9回目の出場を果たした。
今季は、自身が振り付けた新ショート『Send In The Clowns』。1つ1つのジャンプを丁寧に跳び、スケートができる喜びを噛みしめるように笑顔を振りまきながら滑り抜いた。ショートで5位となり最終グループに残ると、フリー『タイタニック』では、得意の3回転ループも決まり、5位と存在感を示した。なんといっても、本当に心から幸せそうに滑る姿が印象的だった。
スケート界全体としては、若手の女子が4回転ジャンプやトリプルアクセルを跳び、ピークの低年齢化や、早期の引退が問題視されている。
しかしそんな風潮をものともせず、大学卒業組のお姉さんたちは自分の輝かせ方を示してくれた。スケートを通して、生き方そのものを手に入れた女性たちの気高い美しさに、胸を打たれた。