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錦織圭の勝負強さは生きていた 全仏“劇場フルセット”で「A lot of focus」覚醒
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byHiromasa Mano
posted2020/09/29 18:00
全仏1回戦の激闘を制して雄たけびを上げた錦織圭。一戦一戦、強さを取り戻してほしい
終盤になるほど高まってくる集中力
第1セットは「攻めすぎてしまった。彼のスライスに対し、早くウィナーを狙いに行きすぎた」と空回りした。しかし、第2セットは立て直す。トップスピンの量を増やし、焦らず慎重にラリーを組み立てた。「少しリラックスして、なるべくラリーを長くして相手のリズムも見ながらプレーした」という錦織が1セットオールに追いついた。
低調なプレーでセットを落としても、戦況を俯瞰できる落ち着きがあった。ショットの調子が万全ではないからこそ、集中力と注意深さで補ったのか。終盤、この集中力がさらに高まる。
第5セットは3-0から3-3に追いつかれた。次のサービスゲームでも相手にブレークポイントを握られたが、なんとかこらえた。慎重にチャンスを作り、なおかつ勇気を持ってラケットを強く振った。その姿に、舞台も同じローランギャロス、昨年の全仏3回戦で第31シードのラスロ・ジェレをフルセットで破った試合が二重写しになった。
第5セット、2ブレークダウンで0-3という絶体絶命のピンチから這い上がった試合だ。イチかバチかで開き直って攻めるのではない。むしろ丁寧に冷静に、手堅いショットで相手に重圧をかける。ショットを打つたびに声を出し、しかし、アクセルを踏みすぎず、だから決してハンドル操作を誤らない。
「ファイナルセットになると……」
ジェレを破ったあと、フルセットに強い理由について錦織はこう話した。
「集中力があまり落ちない。ファイナルセットになると上がってくるような気がする」
長いブランクがあったが、勝負強さは生きていた。あるいは、この4時間近い競り合いで呼び覚まされたか。