ハラハラさせられる試合が多い中で

　錦織は大熱戦をこう振り返った。

「やらないといけないことがしっかりできた。終わり方だけはよかった」

　総獲得ポイントでは錦織が135、敗れたエバンズの方が逆に3ポイント多かった。5セットにもつれた試合の勝敗は通算24勝6敗となった。勝率80％はノバク・ジョコビッチをも上回る。四大大会での5セットの試合では9連勝だ。

「錦織の試合は必ず見る。ハラハラドキドキで面白いから」と筆者に話したのは、大リー
グを長く取材してきたベテランスポーツライターだった。

　確かに、ここ数年、ハラハラさせられる試合は多い。

　簡単に勝てそうだったのにもつれたり、そうかと思うと劣勢から一転、鬼神のように打ち始めて逆転したり……。先の読めない展開を「錦織劇場」と呼び、ヒリヒリ感を堪能するファンもいるようだ。もうダメかと思わせておいて、粘り腰を発揮する。そうして最後にカタルシスがやってくる。「すごい集中した」者だけが、この劇場の主役になれる。

ありふれたマインドセットの言葉だが

「今できるすべてを」

　この試合で錦織の胸にあったのは、どちらかと言えば、ありふれたマインドセットの言葉だった。

　しかし、それを土壇場で実行できる選手は多くない。この心構えが集中を助けた。集中力は怯えを遠くに押しやり、ラケットを振り切る不安、自分から攻めていく怖さを忘れさせる。

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