濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
那須川天心、皇治戦で見せた“格闘技の本質” 「試合にならなかったというくらいの試合だった」
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byRIZIN FF / Susumu Nagao
posted2020/09/29 17:00
那須川天心は皇治との試合で圧倒的な強さを見せつけ、「格闘技の本質」を示した
「皇治さんに持ってる希望を絶望に変える」
皇治は試合の結果だけでなくビッグマウスとパフォーマンスでのし上がってきた選手だ。毒舌で対戦相手をこき下ろすのはもちろん、挑発することで望む相手との対戦機運を高めることもある。今回の那須川戦も、発端は8月大会のリング上にあった。RIZINへの“参戦挨拶”をした際、実況席の那須川をリングに呼び込んだのだ。その時も記者会見の壇上でも、皇治はフロイド・メイウェザー戦で那須川が涙を見せたことをしきりに揶揄している。
実はムカついていた、と試合後の那須川は振り返った。入場時の表情がいつになく険しかったのはそのためだ。無意識に発した「ナメんな!」という言葉を中継のマイクが拾ってもいた。「みんなが皇治さんに対して持ってる希望を絶望に変える」とは試合前インタビューでのコメントだ。
那須川が見せた“格闘技の本質”とは
そしてゴングが鳴ると、那須川は“格闘技の本質”を見せつけた。つまり強さだ。ミドルキックで圧力をかけ、相手の動き出しに合わせてハイキック。パンチで“上”への攻撃を意識させたかと思うとボディにヒザを突き刺す。ラッシュを仕掛ける場面があり、同時に丁寧にジャブを突くことも忘れなかった。そうして距離とリズムをセットし直し、飛びヒザ蹴りを放つ。「(皇治は)頭が下がる癖があるのが分かってたんで」と那須川。
「こんな感じかなと。皇治さんは打たれ強かったですけど、何もさせなかった。想像してたよりやりやすかったですね。もっと(攻めて)くるかと思ってたんで、カウンター狙ってたんですけどね。何もできなかったんだと思いますよ。試合にならなかったというくらいの試合だったと思います」
いくらムカついていても試合内容には影響しない。動きが粗くなるようなことがない。それもまた那須川の非凡さだ。怒りを冷酷な技術に変換できるのである。ケンカはしたことがないという那須川は、まさに“格闘技”の強さを見せた。