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帝京大学駅伝部、ナゾの“はっぴ組”とは? 「布団の上げ下ろし、食事の配膳もする」“バイト”ランナー
text by
和田悟志Satoshi Wada
photograph bySatoshi Wada
posted2020/09/17 17:00
8月下旬、群馬・万座高原で合宿を行った帝京大学駅伝競走部。今年は箱根駅伝で3位以内を狙っていく
その代表格が2014年卒業の猪狩大樹で、2年、3年と2年連続で万座亭でアルバイト合宿を送った猪狩は、日本インカレで3000mSC3位に入ったほか、箱根駅伝では2年連続で8区(3年時に区間3位と好走)を走るなど大きな活躍を見せた。
現チームでは、ハーフマラソンで1時間02分03秒の帝京大記録を持つ、小野寺悠(4年)もまた、1年時にアルバイト合宿を経験している。そこからエース格へと成長していった。
「シューズ1足の額を稼ぐのがいかに大変か」
箱根駅伝を目指すチームの多くは、アルバイトを禁止しているが、堂々とアルバイトができるのも珍しい事例だろう。
「身分はアルバイトでも、万座亭のはっぴを着ている限り、お客様には従業員と見なされるのだから、責任が生じる。ここでアルバイトを経験した選手は、人間的に一回りも二回りも成長を感じます。
また、合宿に参加するにも親御さんの金銭的な負担は大きい。シューズを1足購入するにしてもけっこうなお金がかかりますが、自分で働いてみると、それだけの額を稼ぐことがいかに大変か、身に染みて分かります。そういったことを感じられる貴重な機会にもなっています」
中野監督が言うように、単なる鍛錬の場という以上の意味合いが、そこにはある。
「チャッカマンで火を付けることもできませんでした……」
今夏の万座合宿は、新型コロナウィルス感染のリスクを避けるため、残念ながら“はっぴ組”の参加は見送られた。だが、かつての“はっぴ組”からついに選抜メンバーの座を掴んだ選手の姿があった。その一人が森田瑛介(3年)だ。
森田は、1年時に“はっぴ組”を経験している。
「最初はチャッカマンで火を付けることもできませんでした……。競技力というよりもメンタル面など人間的に成長できたと思っています。当時は、実力不足で選抜メンバーに入れず悔しい思いを味わいましたが、選抜の選手が走っている姿を目に焼き付けておきました。万座は標高が高いし、起伏もあるので、どんな練習もきついんですけど、2年前の経験が原動力になっているので、今はきつくても頑張れています」
森田は、過去2年間、駅伝メンバーに入れなかった悔しさをバネに、新型コロナ禍の自粛期間には基礎固めを徹底した。遠藤大地、中村風馬ら同学年の主力がなかなか調子が上がらないなか、7月に学内で行われた5000mのタイムトライアルで14分08秒の好記録をマークし、今夏は堂々と選抜メンバー入りを果たした。