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「みんな過剰に期待しすぎなんですよ」澤村拓一に聞かせたい上原浩治の金言。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byHideki Sugiyama
posted2020/09/07 20:00
2016年当時、「チームに迷惑をかけて申し訳ない」とたびたびコメントしていた澤村。
救援失敗で敗北するのは、クローザーという仕事の宿命。
藤川は阪神で抑えとなった2007年からの6年間で202セーブを挙げて2度の最多セーブのタイトルを手にした。クルーンも'05年の横浜入団から巨人を退団するまでの6年間で177セーブを挙げて'08年にはやはりセーブ王となっている。
かつてのマリアノ・リベラや全盛期の中日・岩瀬仁紀投手のような絶対クローザーと呼べる投手は本当に一握りでしかない。彼らですら、ここぞの場面で痛打を浴びてチームが沈んでいった苦い経験は必ずある。
それがクローザーという仕事の宿命みたいなものなのだろう。
「みんな過剰に期待しすぎなんですよ」
こう語っていたのはボストン・レッドソックスで昨年までクローザーを務めていた上原浩治投手である。
「抑えの仕事は点を取られないことでもないし、ましてやヒットを打たれないことでもない」
上原は言う。
「クローザーの役目は1点差でも逃げ切ること、勝つことなんです。2点差、3点差があれば『ホームランは打たれたっていい』くらいの気持ちでマウンドに行かないと、あの緊迫した状況で毎日、毎日、投げられないですからね。それぐらい精神的にタフだってことです。僕に言わせりゃヒットを打たれた、フォアボールを出したってガタガタ文句を言うなって感じですね!」
敗北の奈落の恐怖を知りつつも、投げ続ける。
8月31日。勝てばマジック22が点灯する西武戦の9回、2点リードで登板したソフトバンクのサファテは3失点で逆転サヨナラ負け。これが今季8度目の救援失敗だった。
同じ日に広島の中崎翔太投手はDeNA戦で3点リードの9回にマウンドに上がり1イニングを打者3人で片づけて28セーブ目をマークしている。ただ、この中崎とて8月5日の巨人戦では同点の9回にマウンドに上がると負け越している。このときを含めて今季は6度の救援失敗があるのだ。
自分が打たれれば、チームは敗北の奈落に落ちることは分かっている。それでも彼らはマウンドに上がって、投げ続ける。
クローザーとは抑えるのは当たり前、ただし打たれるのもまた当たり前の仕事なのである。