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「みんな過剰に期待しすぎなんですよ」澤村拓一に聞かせたい上原浩治の金言。
posted2020/09/07 20:00
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Hideki Sugiyama
クローザーの過酷さを痛感したのは、2004年アメリカン・リーグのニューヨーク・ヤンキース対ボストン・レッドソックスのリーグチャンピオンシップ・シリーズ第4戦だった。王手をかけたヤンキースが4対3と1点をリードで8回が終了したときだ。
「このままいったらシリーズMVPは松井になります」
ボストン本拠地・フェンウェイパークの記者席に当時、ヤンキースの広報だった広岡勲さん(現江戸川大学教授)の声が響いた。
ヤンキース移籍2年目の松井秀喜外野手はこのシリーズで打棒が爆発。王手をかけることとなった第3戦で2本塁打を含む5安打5打点のシリーズタイ記録をマークし、この試合でも2回に二塁打、6回にも三塁打を放って逆転の立役者の一人となっていた。記者席の日本人メディアだけではなく、米メディアも含めて誰もが広報の声に納得した直後のことだった。
あの完全無欠の絶対クローザー、マリアノ・リベラが全てをフイにしたのである。
9回裏に先頭打者を歩かせる。代走のデーブ・ロバーツ外野手に起死回生の二盗を決められ、ビル・ミラー内野手に同点タイムリーを浴びて追いつかれた。そうしてチームは延長戦の末に4対6で敗れたのだ。
リベラの悲劇はこれだけではなかった。
続く第5戦。8回にトム・ゴードンが先頭のデビッド・オルティス内野手にソロを浴び、四球と安打が続いていた。そこから1点リードの状態でマウンドに上がったリベラだが、一、三塁に走者を置いた状態から同点犠飛を打たれて試合を振り出しに戻してしまう。最終的には延長14回の激闘の末、オルティスのサヨナラヒットでボストンが勝利した。
結局このシリーズは、リベラを打ち崩して崖っぷちから生き返ったレッドソックスが3連敗から4連勝して逆転優勝。ヤンキースのワールドシリーズ進出とともに松井さんのMVPも夢と消えたわけである。
「彼も人間なんだ」(ジョー・トーリ前監督)
当時のリベラは35歳手前だったが、まだまだそのキャリアと魔球と言われた高速カットボールの威力は抜群でトップクローザーとしての顔と実力を誇った選手である。
「マリアノは責められないし、マリアノといえども完璧ではないということである。彼も人間なんだ」
ヤンキースのジョー・トーリ前監督は後にこう振り返っているが、あのマリアノでもそうだったように、完璧なクローザーなどいないということを教えるシリーズだった。
極論を言えばクローザーとは、どこかで必ず打たれるものなのである。
広島の独走となったセ・リーグのペナントレースを決したのは、巨人のクローザー・澤村拓一投手が浴びた一発だった。