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大坂なおみが話した“経験の差”に、16年前のピエルスとシャラポワの台詞を思う。
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2020/09/06 14:30
3回戦では2時間を超える激闘を制した大坂なおみ。2018年以来となる全米制覇へ、セカンドウィークに突入する。
「18歳の私と今の私の違い」とは。
最終セットになると、大坂は頻繁にペースの変化を用いて相手のリズムを崩しにいく。コスチュクはタイミングをはずされて苦しんでいるようだったが、先に第4ゲームで0-40のピンチに立たされたのは大坂のほうだった。
コスチュクがこの試合2度目のメディカルタイムアウトを取った直後の嫌な流れだ。しかし、ここでサービスエースをきっかけに3ポイントを連取してデュースに戻すと、さらに2つのブレークポイントをしのいでキープする。
明らかに意気消沈してミスが増えたコスチュクに対して、そこから1ゲームも与えることなく、最後はサービス力炸裂のラブゲームで2時間33分のロングマッチを締めくくった。
「何が起ころうと勝つチャンスはあるという自信がある。それが18歳の私と今の私の違いだと思う。18歳のときは自制がきかなかったし、経験もまだ乏しかった。(自信がついてきたのは)いつからかは自分でもよくわからないけど、ツアーの中で試合をこなすことでしか得ることのできないものだと思う」
相手に対するリスペクトと、それでも負けないという自信の両立が、成熟したプレーヤーへの1つのカギであることを大坂は体現している。
シャラポワがつけた黒いリボン。
冒頭の試合にもう一度話を戻させてほしい。
敗れたシャラポワは胸に黒いリボンをつけて戦っていた。その頃ロシアで続けざまに起きていた凄惨なテロ事件を受け、母国の平和へ祈りを込めたリボンだった。そして、17歳のシャラポワは言ったのだ。
「世界で起こっている悲惨な出来事を見れば、私が試合に負けたことなんてちっぽけなことだわ」と。その気付きを、いっそうの強さに変えることのできる特別な人たちがいる。
このシャラポワの言葉にも、今の大坂を思う。黒いリボンと黒いマスクの意味合いはまったく別だが、大坂は宣言通り、黒人の命の問題を黒いマスクを通して呼びかけ続けている。