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ドジャース広報の“ノモサン”愛と
ノーヒッターの夜の仰天エピソード。
text by
笹田幸嗣Koji Sasada
photograph byAFLO
posted2020/08/23 11:50
1996年9月17日、ロッキーズ戦でアジア人初のメジャーでのノーヒットノーランを達成した野茂英雄。捕手のマイク・ピアザと喜びを分かち合った。
『ヒデオのために頑張ろう』と思わせる投手。
「彼ほど勇敢に相手に挑み、勝ちたいという気持ちをマウンドで示す投手はいない。捕手を含め8人。我々に『ヒデオのために頑張ろう』と思わせる。そんな気概をいつもマウンドで示していた。
彼は言葉はうまく話せないが、マウンド上で、その背中で我々野手を引っ張っていく投手だ。だから我々はヒデオの後ろを守ることが大好きなんだ。チームの勝利のために懸命に投げる。投手として最も大事な姿をいつもマウンド上で示している」
デリックはチームメイトから愛され、信頼されるノモサンの姿に感銘を受けたと言う。立場は違えど多くのことを彼から学んだとも言った。その最たるものが“humble”(謙虚さ)。どんな立場であろうと、謙虚な姿勢は忘れてはならない。この銘もノモサンから学んだものだと言う。
「立場が人を変えてしまうということもあります。でも、ノモサンはいつもノモサンだった。謙虚な人柄は初めてベロビーチで会った時から変わらないですね」
ノーヒッターの夜にまさかの……。
野茂英雄は米国でも語り種となる伝説の投手だ。ストライキでファン離れが激しかった窮地を救ったヒーローであり、アメリカン、ナショナルの両リーグでノーヒッターを達成した4人目の投手にもなった。
よくデリックはハリウッドスターと同じ輝きを放っていたと表現するが、ノモサンとの忘れられない思い出として、'96年9月17日にクアーズフィールドで達成したノーヒットノーランの夜を挙げた。デリックにとって、この日の出来事こそ、野茂英雄を語るにふさわしいエピソードだと笑うのである。
「標高1600メートル、コロラドの球場ですよ。今でも誰も成し得ない打者天国の地で彼はノーヒッターを達成しました。投手としての凄さはもちろんですが、私は試合後の出来事が忘れられません。
あの日は雨のおかげで試合開始が2時間ほど遅れました。試合終了は深夜でした。それから記者会見やら何やらで一緒にホテルに戻ったのは午前2時近かったと思います。それでも私は何かノモサンのためにお祝いがしたくて『何かお望みはありますか?』と聞いたんです。そうしたら彼はこう言ったんです。
『セブンイレブンに行きましょう! ブリトーが食べたいです』」