スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
久保建英を智将エメリ自ら口説く。
ビジャレアル初タイトルへの本気度。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byGetty Images
posted2020/08/20 11:30
“好チーム”から“タイトルを狙えるクラブ”へ。久保建英を手に入れたロッチ会長とビジャレアルは、この1年を勝負とみているようだ。
好チームだがタイトルとは無縁。
ロッチ会長率いるパメサグループがオーナーとなった1990年代後半以降、ビジャレアルは優れた選手育成と健全経営で急成長を遂げたものの、いまだ初タイトルには手が届いていない。
ラ・リーガの最高成績は2007-08シーズンの2位。欧州のカップ戦は4強が最高で、ファイナルの舞台に立ったことはない。
2003-04シーズンのUEFAカップはバレンシア、2005-06シーズンのCLはアーセナル、2010-11シーズンのELはポルト、2015-16シーズンのELはリバプールとの準決勝で、初のファイナル進出を阻まれている。
コパデルレイに至っては格下に足をすくわれることが多く、4強入りすら2014-15シーズンの一度しか経験していない。昨季も準々決勝で2部のミランデスに敗れており、それがエメリ招へいを決断させた一因とも言われている。
周知の通り、エメリはセビージャ時代にヨーロッパリーグ3連覇の偉業を成し遂げている。パリ・サンジェルマンでも2季連続で国内のカップ戦2冠を獲得しており、ビジャレアルに欠けるトーナメントの勝ち方を熟知した監督だと言える。
実は別のマドリー保有選手も狙っていた。
エメリの就任会見に同席したロッチ会長は「重要なのは毎年ラ・リーガとヨーロッパで戦い続けること。タイトル獲得に執着すべきではない」と話していたが、本人は悲願の初タイトルを期待されていることを十分に自覚しているはずだ。
それはエメリが久保の獲得を熱望し、直接電話で口説いたことからも窺える。
エメリの就任前、ビジャレアルは別の選手を獲得すべくレアル・マドリーと交渉していた。昨季はBチームのカスティージャからレガネスにレンタル移籍していた、オスカル・ロドリゲスである。
1部初挑戦の昨季、オスカルはMFながらチーム最多の9ゴールを記録し、シーズン途中に2人のストライカーを引き抜かれたレガネスが最終節まで残留の望みをつなぐ原動力となった。7月のマジョルカ戦を見た者であれば、彼が決めたえげつないほど強烈な直接FKを記憶しているはずだ。