ピンチのたびに立ち上がれる理由。

　今となっては欠かすことのできない先発ローテーションの一角を担っている大貫だが、いつ信用を失うかもしれない極めてアンバランスな立場にもかかわらず、どうして意気軒昂とし諦めることなくマウンドに立ち続けることができるのか。

「僕はかつて野球を辞めようと思ったことがあったんです。大学生のころ怪我をしてしまって、何度も当時の監督に辞めますと伝えました」

　大貫は高校生のころから右肘の不調があり、大学時代にトミージョン手術を受けている。内外から注目された選手ではあったが、学生時代の大半をリハビリとともに過ごすしかなかった。

「だから野球ができていることが、当たり前のことではないんですよ」

　重い言葉。しかし大貫はそう言うと表情をゆるめた。

「多くの人に支えられて今の自分があります。感謝しかありません。今は本当に、野球がやれていることが、すごく幸せなんですよ」

　大貫が常にぎりぎりのところで踏み止まり、ピンチのたびに立ち上がってくるのがわかったような気がした。

「その幸せだという思いを終わらせたくないというか、なるべく長く野球を続けたいという気持ちでがんばっています」

　誰もがそうであるように幸せを追求するのは人間の本能だ。だから強い。だから諦めない。大貫は今日もマウンドに立てる喜びを誰よりも享受し、相手打者のインサイドへ強いボールを投げ込む。