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甲子園史上最も壮絶な乱打戦…「大逆転のちサヨナラ押し出し」帝京名将が振り返る“智弁和歌山に負けた15年前”
posted2021/08/28 06:00
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph by
KYODO
ようやくベスト4が出揃った2021年夏の甲子園。その内の1校、智弁和歌山(和歌山)は2006年以来15年ぶりの準決勝進出だが、当時ベスト4入りを決めた帝京(東京)との準々決勝は壮絶な打撃戦となったことで知られる。そこで、この名勝負を振り返った「Sports Graphic Number」掲載記事を特別に公開する。
今もなお甲子園史上最も壮絶と言われる打撃戦。しばしば疑問視されるのが帝京の継投策だが、実は勝算あっての采配だった、と名将が明かす。
〈初出:2020年7月30日発売号「<劇的一敗の研究>大逆転のちサヨナラ押し出し 帝京vs.智弁和歌山(2006)」/肩書などはすべて当時〉
今もなお甲子園史上最も壮絶と言われる打撃戦。しばしば疑問視されるのが帝京の継投策だが、実は勝算あっての采配だった、と名将が明かす。
〈初出:2020年7月30日発売号「<劇的一敗の研究>大逆転のちサヨナラ押し出し 帝京vs.智弁和歌山(2006)」/肩書などはすべて当時〉
帝京 000 200 028 :12
智弁和歌山 030 300 205×:13
智弁和歌山 030 300 205×:13
両チーム合計29安打25得点、7本塁打が飛び交った超乱打戦。今も甲子園の「名勝負」として語られる2006年夏の準々決勝、帝京対智弁和歌山の一戦は、帝京のちょっとした「奇襲」から始まった。
優勝候補の智弁和歌山に「奇策を考えないと」
前田三夫監督が試合前のプランを明かす。
「智弁和歌山は力のあるチームで、優勝候補でしたからね。劣勢なのはわかっていたので『奇策を考えないと』と。自分のチームの選手に緊張感を与える意味も込めて、高島という1年生を先発させました」
高島祥平は東東京大会で3試合6回2/3しか投げておらず、甲子園でも3回戦まで登板はなかった。だが、1年生ながら思い切りのよい投球を、前田は評価していた。
甲子園春夏通算40勝(当時)の名将は、意外性に期待しつつ、先も見据えていた。
「主力ピッチャー以外の選手に投げてもらうことも、あり得ると思っていました」
先発の高島は2回途中3失点と、早々に相手打線の餌食となった。2番手の2年生左腕・垣ケ原達也も5失点。指揮官は7回途中からエースの大田阿斗里を登板させた。
8回終了時点でスコアは4対8。このとき、前田は負けを覚悟していたが、選手たちの気概は失われていないと肌で感じた。
「納得した形で終わらせてやりたい」
9回表。普段ならないことだが、選手に意見を訊いて、先頭の大田に代え、打力の高い沼田隼を代打に告げた。
この起用が、帝京への追い風となった。
「勝見がいるから心配いらない」
2死一、二塁から5連打で逆転。そして、打者一巡で再び打席が回った沼田に3ランが飛び出し、一挙8点と打線が爆発した。