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長州力に聞くプロレスマッチメイクという仕事 「おい、何が聞きたいんだ? 本当に『Number』なんだろうな?」 

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井上崇宏

井上崇宏Takahiro Inoue

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photograph byTakeshi Yamauchi

posted2021/05/06 11:01

長州力に聞くプロレスマッチメイクという仕事 「おい、何が聞きたいんだ? 本当に『Number』なんだろうな?」<Number Web> photograph by Takeshi Yamauchi

'82年に勃発した藤波辰爾との抗争では感情むき出しのスピーディーな戦いで名勝負を連発

「おい、今日はいったい何が聞きたいんだ?」

 と、こぼれ話を楽しそうに話したかと思えば、「おい、今日はいったい何が聞きたいんだ? これ、本当に『Number』なんだろうな?」と我に返ったかのように険しい表情となって牽制してきた。プロレスにおける名勝負が特集のテーマであることを伝えると、「俺は一試合たりとも憶えちゃいないね。たっつぁん(藤波辰爾)とのアレ(抗争)も、会長が俺に『おまえはちょっと味が薄い』って言ってきたから俺は調味料を使ってちょっと味を濃くしてみただけであって。名勝負はなんだとか、そんな話を聞いてくるなら今日はもう終わりだぞ」と一刀両断した。だが、「まあ、これは『Number』の読者に伝わる話かどうかわかんないけども」とつぶやくと、気を取り直したようにふたたび語り始めた。

「プロレスっていうのは“どれだけ遊ぶか”なんだよ。これ、変なふうに捉えるなよ? 俺自身も45年間、プロレスの世界で遊びまくった。レスラーっていうのは100人いたら100人とも名誉が欲しいし、お金も欲しい。それを手にするポイントは一生懸命に遊ぶことだよ。そうして一生懸命に遊んだ者同士の試合が要するに名勝負になるってことじゃないか? スポーツっていうのは本来遊びなんだから。オリンピックなんていうのは究極の遊びであって、『こんな高いところから飛び降りちゃダメ!』って言われるような所で誰がいちばん飛べるかを競ってるわけだ。ただ、一生懸命に遊ぶためにはそれなりの努力と必死のトレーニングは必要ってこと。やっぱり、なかには手を抜く奴もいる。そうやって手を抜いた奴にはチャンスはやってこないっていうそれだけの話だよ」

今のプロレスはオープンキッチン

 たしかに現場監督時代の長州が、日々、厳しいトレーニングをレスラーたちに課していたことは有名な話である。まずは素材ありき。そうでなければ、のちに自身が旗揚げしたWJプロレスも、長州の頭脳ひとつで成功を収めていたかもしれなかっただろう。

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「まあ、俺らの時代は定食屋でよかっただろうけど、今の時代に必要なのは安心感だから。作る人の顔がちゃんと見えて、食材も産地がどこかをすべてはっきりと明かして、初めてお客さんも安心して食べられる。昔は暖簾から『はい、できたよー!』って腕だけ出してきてな、誰が作ったのかもわかんない。しかもお客さんが食べ残してたりすると『なにぃ、まずいっていうのか?』って脅かすくらいのことをやっていたからな。そういう時代だよ。今のプロレスはオープンキッチン。お客は自分の好みのシェフのところに並べばいいんだよ。

 ただ、どの時代でも変わらないことは俺らは見られてなんぼの商売。お客がいなかったら何も意味がないんだ。今は無観客試合をやっているけど、そんな誰もいないところでわけのわからない奇声を発するなんて俺には無理だな。俺の感覚では無観客のプロレスの試合なんていうのは絶対に成立しないんだけど、これは批判ではない。やっぱり定食屋で育つとこういう考えになっちゃうのは致し方ないよ。

 いや、ちょっと待て。俺がオープンキッチンでなんでも話すと思ったら大間違いだぞ? 話はこれくらいでもういいだろ。しかし『Number』なんかがなんで俺の話を聞きたいのか……。あっ、そういえば『Number』には昔、俺が結婚する前に女の子とサイパンに行ったところを写真に撮られたんだよな。その時の落とし前はどうつけてくれるんだ? これ、絶対に伝えとけよ」

 それは絶対に『Number』ではないと思うし、いったい『Number』をどんなメディアだと思ってずっと話していたのだろうか……。

長州力RIKI CHOSHU

1951年12月3日、山口県生まれ。ミュンヘン五輪に出場し、'73年に新日本入団。'82年、藤波辰爾との抗争でブレイク。以後は“革命戦士”としてマット界の中心に君臨。全日本参戦を経て復帰すると、'89年から現場監督として団体を取り仕切った。昨年6月に現役引退。

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