オリンピック4位という人生BACK NUMBER
<オリンピック4位という人生(12)>
北京五輪 女子卓球・福岡春菜
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byAFLO
posted2020/07/05 09:00
韓国との3位決定戦、2連敗で追い込まれた3戦目のダブルスを平野早矢香(右)と戦った福岡春菜。
北京の記憶に砂をかけ続けていた。
その後も愛ちゃんや平野とは顔を合わせた。これまで通りに食事をし、カラオケに行き、他愛ないことで笑いあった。ただ北京のことは決して口にしなかった。
「私が戦犯なんだ。ごめんなさい。そういう気持ちもあって……、私は北京の記憶に砂をかけて隠し続けてきたんです」
ただ砂をかければかけるほど、あの瞬間の傷は乾くことなく、じくじくと福岡の心を侵蝕していった。
それがあらわになったのは4年後。あの歴史的な日だった。
ロンドンの舞台に福岡はいなかった。
アリーナに立ったのは愛ちゃんと平野、そして19歳の新鋭・石川佳純だった。
すでに代表から外れていた福岡は、彼女たちのプレーを直視できなかった。
「見たくなかった。早く負ければいいのに。正直、そう思っていました」
内心ではわかっていた。おそらく今回はメダルを取るだろう。断片的に伝わるプレーや表情、雰囲気を見ればわかった。それが余計に福岡の心をくしゃくしゃにした。
メダルをかけた準決勝、ホテルの一室。
だが、まさにメダルをかけた準決勝、シンガポール戦の日。福岡は胸に啓示のようなものを感じた。
「これは見ないといけない。見ないと一生後悔すると思ったんです」
仕事で投宿していた東京のホテルの一室。ひとり、テレビ画面の前に正座した。
福岡の眼前で、あの日を裏返したようなゲームが繰り広げられた。
眉間にシワを刻んだ23歳の愛ちゃんが一球ごとに叫ぶ。石川が踊るようにステップを踏む。ダブルスで石川と組んだ平野は笑みすら浮かべて冷静に球をさばく。