濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
今こそ齋藤彰俊戦が必要だった……。
ノア「潮崎豪時代」への通過儀礼。
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byPRO-WRESTLING NOAH
posted2020/06/20 11:00
激闘の中で三沢の存在を濃厚に感じさせた潮崎と齋藤。試合後の齋藤は「シオ、ありがとう!」と叫んだ。
「十字架はもう充分に背負った」と小橋建太。
文句なしの名勝負。しかし試合前に、彼らが“いま闘う意味”を問い直した者がいることも伝えておきたい。ノアOBの小橋建太だ。中継の解説を務めた小橋は、大会に向けたインタビューでこう言っている。
「2人のGHC戦は2度目。齋藤選手はこれまで(三沢の死という)重い十字架を背負ってきた。でも齋藤選手の実力を知っているからこそ、十字架を外した、純粋なぶつかり合いが見てみたいんです。十字架はもう充分に背負ったんだから」
誰もが“運命の対決”に前のめりになる中で、この視点は貴重だった。“三沢に捧げるGHC戦”としての潮崎vs齋藤は、すでに2009年9月の三沢追悼大会で行なわれている。では、今また同じテーマで同じカードが組まれた意味は何なのか。
答えは“今だから”だ。齋藤は言う。
「今ノアは新しくなってるけど、古きを知った上で新しくなったほうがいい。その意味で(王座挑戦が)これ以上遅くてもダメだなと」
今年、ノアはサイバーエージェント傘下となった。この大会もABEMA(AbemaTV)で中継されている。清宮海斗をはじめ若い世代が台頭、そのことで新規ファンも増えた。
そういう状況だから、ノアがノアである意味を見つめ直したいという思いが齋藤にはあったのだろう。また彼は昨年秋から、井上雅央とともに往年の名ユニット「反選手会同盟」を復活させている。
その目的は、自分も含め普段はスポットライトが当たりにくい選手、身長体重に年齢、タイトル歴といった「スペック」では測ることのできない魅力を持つ選手に刺激を与えることだ。今のノアには新しく、激しい流れがある。それを認めているからこそ、齋藤はあえて抗おうとしている。そういう中での、潮崎への挑戦表明だったのだ。
潮崎は“エース道”の再スタートを切った
一方、潮崎は過去と交信することで自分の時代を築こうとしている。
計4回のGHCヘビー級王座戴冠は最多タイ記録。しかし過去の防衛回数は1回、3回、1回と、長期政権には至っていない。小橋からチョップをはじめ大事な技を受け継ぎ、三沢の後継者と目されながら、これまで期待に応えきれてはいなかった。ノアを離れて全日本プロレスで闘っていた時期もあり、しばらくは“出戻り”のイメージも付きまとった。
今年1月、4度目のタイトル獲得は、だからかつて期待された“エース道”のやり直し、再スタートだった。
清宮の王座に挑んだ試合から、潮崎は三沢のイメージカラーである緑を基調にしたコスチュームを着用している。