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スポーツとリアリティショーの距離。
宇野常寛が語る“1億総テラハ社会”。
text by
八木葱Negi Yagi
photograph bySports Graphic Number
posted2020/06/21 11:30
宇野氏が主宰する、SNSのタイムラインから距離をとる「遅いインターネット」というプロジェクトも現在進行中である。
SNSは社会のすべてをテラスハウス化する。
――ただいじめの快楽を導入することで人の関心をより強く引けることがわかってしまった時に、それをリアリティショーが自重するのは難しい気もします。
宇野「そこでいじめの娯楽化を認めるのなら、公の場で表現する資格はありません。ただ、人の行動を観察し、感情移入すること自体を否定してしまうと、全ての芸能文化やプロスポーツ文化を一緒に否定することになるわけで、それはあまりに乱暴な議論になってしまう。
重要なのはリアリティーショーという形式の是非ではなく、インターネットユーザーのモラルの問題とかSNSのシステムの問題ですよね。Twitterでそのアカウントの持ち主がコメントをつけられるユーザーを制限できるようにするだけで状況はかなり異なるはずですし、誹謗中傷に対する法的な措置のハードルももっと下げられるはずですから」
――『テラスハウス』の問題はリアリティショーであることではなくて、運営方法が良くなかったということに尽きる、と。
宇野「というよりも、今って“1億総リアリティショー”と言っていい状態だと思います。誰もが多かれ少なかれ、閉じた相互評価のネットワークで好感度という名の座布団を稼ぐための大喜利をやっているわけですから。SNSは社会のすべてをテラスハウス化する装置だと言えます」
――良いリアリティショーと悪いリアリティショーはどんな線で分けることができるんでしょう。
宇野「倫理観のない愚かな運営か、倫理観のある賢い運営かという差があるだけ。それに尽きると思います。これはテレビでも、アイドルでも、スポーツでも同じです。重要なのは、運営者や業者に自制を促すことと、SNS環境を技術的に改善すること、この両方から攻めることです。どれだけ炎上しにくいシステムを作っても、ユーザーは必ずその穴を突いてくる。イタチごっこになるのは自明なので、ユーザーの啓蒙とSNSのシステムの改善の両側からアプローチするのが効果的だと思います」
――そんな宇野さんから見て、スポーツ界の運営はどうですか?
宇野「こんな話をしてきましたが、スポーツを見るのは実は好きなんですよ。ただ僕の場合は同じ日本人だから日本の選手が活躍するのを見て感動するとか、そういうのはよく分からないですね。絶対に自分にはできない美しいシュートとか、想像を越えるジャンプとか、戦術の応酬とか、そういったものに惹かれます。
ただやっぱり業界としては時代遅れの根性論や軍隊的な集団主義が賛美される風潮がまだ根強く残っているように感じます。こうした前時代的な『体育』が現代的な『スポーツ』にアップデートされていくといいなと思っています」