Number ExBACK NUMBER
スポーツとリアリティショーの距離。
宇野常寛が語る“1億総テラハ社会”。
text by
八木葱Negi Yagi
photograph bySports Graphic Number
posted2020/06/21 11:30
宇野氏が主宰する、SNSのタイムラインから距離をとる「遅いインターネット」というプロジェクトも現在進行中である。
テラスハウスの変質といじめの快楽。
――その映像技術にSNSが加わった最新版が商業スポーツであり、テラスハウスであったわけですね。
宇野「僕はテラスハウスを2017年から2018年にやっていた軽井沢編から見はじめて、2019年から始まった東京編も見ていました。途中から相当番組の作りに危うさを感じるようになって、良くないんじゃないかという発言もしてきました」
——危うさ、というのはどういうことでしょう。
宇野「テラスハウスは建前としては若者たちの恋愛模様や人間的成長をドキュメントで楽しむ番組ですが、実際は登場するプレイヤーたちは新人のモデルや俳優や若手のプロスポーツ選手で、名前を売りたいという動機を持っている。言ってしまえばSNSのフォロワー数を増やすために好感度を上げようとして振舞っているわけです。それは当然のことです。
ただ軽井沢編の後半から建前が崩れて、プレイヤーたちが番組の裏側を暴露しはじめたんですよね。『お前カメラ回ってない時と言ってること違うじゃん』と。東京編が始まるとその暴露が常態化しました」
――それはどんな影響があったんですか。
宇野「プレイヤーたちは好感度を上げるために振る舞っていることが前提で、そのわざとらしさをスタジオでタレントが叩き、タレントの号令に合わせてTwitterやInstagramの人たちが一斉に攻撃するという、いじめの快楽が目立つようになってきました。それで僕は、これは危ない状態だと指摘したこともあります」
――番組上での振る舞いだけでなく、番組を利用して好感度を上げようとしている人そのものがネタになっていったのですね。それはどうして起きたんでしょう。
宇野「リアリティショーとしてその方が刺激的で、視聴者の反応も良かったのだと思います。だけどそこでいじめの快楽に流されずに、制作側が特定の人間に批判が集中しないように文脈をコントロールするべきでした。どう考えても一番悪いのは、インターネットをいじめの道具として使った人たちだけど、制作者たちの責任もあると思います。」