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スポーツとリアリティショーの距離。
宇野常寛が語る“1億総テラハ社会”。
text by
八木葱Negi Yagi
photograph bySports Graphic Number
posted2020/06/21 11:30
宇野氏が主宰する、SNSのタイムラインから距離をとる「遅いインターネット」というプロジェクトも現在進行中である。
「他人の物語」縮小の流れは止まらない。
――その流れは今後も続くのでしょうか。
宇野「長期的な変化としては20世紀のレベルで『他人の物語』が文化の中心に居座るのは難しいでしょうね。人間はそれがどれほど凡庸でも他人の物語を観るよりも自分の物語を語るほうが好きな生き物で、情報技術は誰でもかんたんに自分の物語を語ることを可能にするので、もう後戻りはできないと思います。
僕は『他人の物語』を観るのが好きな人間なので、少し寂しいですが、覆らないと思います。SNSの力で『他人の物語』が盛り返したのはここ10年くらいの短期的な現象です。やはり長期的、かつ相対的には『他人の物語』が集める関心が減っていく流れは止まらないはずです」
――スポーツマーケティングではよく「ファンにとって自分ごとにさせる」という言い方をしますが、それは競技スポーツが本来はどこまでいっても他人ごとだという裏返しでもありますよね。
宇野「僕自身も2015年に『オルタナティブオリンピックプロジェクト』というのを猪子寿之さんや乙武洋匡さんと作った時には、いかにオリンピックを自分ごとにできるかという企画書を考えました。ただ、今の僕は見るスポーツをアップデートするより自分が走ることの方に関心が向いています」
――そう考えると、どうして人間は他人のスポーツや恋愛にあれほど熱中するのでしょう。その根本から不思議に思えてきます。
宇野「不思議ではありません。人間は太古から他人の物語に感情移入することによって社会をつくってきたわけですから。ただ、20世紀は映像技術と放送技術でそれがかつてないレベルで一気に大規模化し、日常化したわけです。要は『他人の物語』をマスメディアに流して社会をひとつにまとめやすくなった。たとえばそれを最大限に利用したのがヒトラーだったわけです」