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トーレスとイニエスタ、最後の抱擁。
語られなかった2人だけの2秒間。
posted2020/06/22 07:00
text by
原壮史Masashi Hara
photograph by
Masashi Hara
フェルナンド・トーレスとアンドレス・イニエスタ、スペインで他クラブのサポーターからも愛され、世界中のサッカーファンに尊敬される2人は、共に新天地に日本を選んだ。
2019年8月23日、明治安田生命J1リーグ第24節、サガン鳥栖vs.ヴィッセル神戸。この試合は、トーレスの引退試合だった。
チケットは即完売。2万3000人のファンが鳥栖のスタジアムに集い、スペインからもメディアが来日、世界が注目する一戦になった。
バスでスタジアムに到着した時も、ウォーミングアップのために登場した時も、トーレスは穏やかな表情だった。それは、試合開始が近づいても変わらなかった。
この日、2人は既に2回抱擁を交わしていた。まずは入場する前にエントランスで両者笑顔で。次は、両チームがフェアプレーを誓い合う握手を交わす時にピッチで、やはり両者笑顔で。自身の3人の子供達を連れて入場してきたトーレスは、3人目の女の子を片腕で抱え上げたまま、その2回の抱擁を交わした。
2人が日本で戦うのは初めてではなかったが。
トーレスとイニエスタ、スペインからやってきた世界的なスーパースター2人を1枚の写真に収めるのは、この試合が最初ではない。同じ年の3月2日、神戸で行われた同カードで、2人はやはり握手を交わし、試合中でもボールを争う場面があった。
トーレスは、スタメンで出場すれば鳥栖のキャプテンとしてチームメイトを引っ張っていた。2018シーズンでは人生で初の残留争いをし、このシーズンもそれは変わらなかった。思うようなボールが前線に届かなくても、これまで所属してきたメガクラブでは考えられないようなもったいないミスを目の当たりにしても、彼はチームを鼓舞し続け、前線で体を張り、守備のために走り、鬼気迫る表情でレフェリーに抗議した。