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クライミングを危機から救え!
全国各地に広がる“ジム支援”の輪。
text by
津金壱郎Ichiro Tsugane
photograph byAFLO SPORT
posted2020/06/23 11:00
宮城では2人の女性が発起人に。
ここまで紹介したプロジェクトは、クライミングジムが立ち上げたものだが、宮城県内の7つの商業ジムを守るためにスタートした『SPORT CLIMBING MIYAGI/宮城県クライミングジム支援プロジェクト』(期限6月29日・CAMPFIRE)は、ジムユーザーの心意気から発生したもの。今春から社会人になった23歳の田端真依さん(写真左)と1学年下の佐藤涼香さんのふたりが発起人だ。
「プロジェクトを思いついて、最初にジムへ『クラウドファンディングをやろうと思っています』と持っていったら、『気持ちだけでうれしいよ』と断られたんですね。でも、それで逆に火がつきました」(田端)
「デザインの仕事をしているジムの常連さんに何度も頼み込んでリターン品のTシャツのデザインを協力してもらって。いろんな人たちが参加してくれたから始めることができました」(佐藤)
クラウドファンディングでは第三者がプロジェクトを立ち上げるケースの手数料などは、当事者が立ち上げるそれよりも割高になる。リターン品の制作原価もあり、目標額に達しなければ足が出る可能性もある。それでも、ふたりを突き動かしたのは、「クライミングジムは私たちにとって“第二の家”だから、そこを守るために何かをしたかった」(田端)の思いだ。
練習場所が商業施設という特殊性。
クラウドファンディング以外にも支援の方法はある。多くのクライミングジムは休業要請期間中に開設したネットショップで、各クライミングジムのオリジナルTシャツなどを販売している。『休業で収入のなかった助けに』の気持ちから、発売後すぐに売り切れるケースが多いものの、今後も新作は登場する。行くのは叶わない遠くのジムのTシャツ購入もジム存続への支援になる。
「スポーツ全体を見ても、スポーツクライミングのように選手の練習場所が商業施設という競技は多くないと思うので。クライミングは施設の危機が選手の危機になってしまうので、自分にできることをしっかりやっていきたい」
そう語っていた土肥は、安全と移動の自由が取り戻された際には、「これまで利用したことのないジムに新たに行くことを考えている」と明かす。
クライミングジムの経営を逼迫させる要因のひとつが、新規顧客の激減にある。ジム経営は常連客と新規客の両輪が揃って初めて安定するが、『withコロナの時代』にあっては、新たにクライミングに興味を持った人が、好奇心だけでクライミングジムの扉を開くにはハードルが高いのだ。
「ぼくが新たなジムへ新規利用者として行くことで、少しでも助けになりたいなって。仲間を誘っていつもと違うジムに遠征するのも楽しいと思うので」
一人ひとりができる支援は大きくなくても、その積み重ねは必ず『afterコロナ』の時代のクライミング文化への投資になる。