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勇気をもって最後方からつなごう。
在ドイツ日本人GKコーチの知見。
text by
中野吉之伴Kichinosuke Nakano
photograph byGetty Images
posted2020/06/14 08:00
シュツットガルトの正GKを務めるコベル。彼らのビルドアップを見るだけでも学べることは多い。
ギリギリの瀬戸際での採用。
プロの育成アカデミーの指導者となれば、競争率は高い。なりたいからといって、そう簡単になれるものではない。ところが、それからしばらくして急に連絡が来た。そのGKコーチが抜けるという流れになったという。
「とりあえず一度、僕が指導しているところを見たいというので、キッカーズの練習まで来てもらいました。そうしたら、すぐ『オッケー! 君を欲しい』って言ってくれて」
晴れてプロクラブからのオファーをもらった松岡だが、そのタイミングは劇的だった。実は、ドイツで指導を続けられるかどうか、ギリギリの瀬戸際にいたというのだ。
「クラブから話をもらったのが2018年の3月末だったんですけど、3月頭に外国人局から『これ以上ビザの更新はできません』という通達をもらっていたんです。ああ、終わったと思いましたね。理由としては、日本人対象のスクールの収入が良くなかったというのがありました。
弁護士さんにお願いして交渉を重ねて、保護者の方の協力もあり、なんとか『3カ月だけ仮ビザ出します』という連絡をもらえたので、ほっとしてそれを受け取りに行ったんですけど、まさにその帰り道でVfBから電話があったんです。大逆転ですよね。びっくりしましたけど(笑)」
着実な積み重ねがあったからこそ。
巡り合わせの縁というのは、ときにこちらの想像できない形で訪れたりする。とはいえ、どこからともなくチャンスが訪れることがあったとしても、それをつかむ実力がなければ生かすことはできない。それまでの着実な積み重ねがあったからこそ、新しい世界に足を踏み入れることができたのだ。
「つながりはできたけど、内心では入れないかもしれないと思っていました。無理かな、日本に帰ろうかなと考えていました。それでも諦めずに続けて、いつ声がかかってもいいように最新のトレーニングを勉強していたので、それが良かったのかな。
いつ見てもらっても自信がある状態でした。だからVfBのコーディネーターから『練習を見にいく』と言われたときは、『よっしゃー!』という気持ちでしたね。緊張などなく、楽しかった。そういう準備ができていたというのは良かったのかなと思いますね」