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NBAデビューに達成感はなかった。
渡邊雄太が描き続ける未来の自分。
posted2020/06/15 08:00
text by
宮地陽子Yoko Miyaji
photograph by
Getty Images
2019年元旦。練習を終えた渡邊雄太は、コービー・ブライアントの昔のシグニチャーシューズ「コービー1」の復刻版を履いて、取材に現れた。
「これ、お気に入りなんです。この前、ロサンゼルス遠征のときに見かけて買ってしまいました。僕、ナイキにスポンサーしてもらっているのに、自腹で」
カメラマンの指示に従って撮影のポーズを取る合間に、そう話して笑った。
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渡邊は子供の頃、コービー・ブライアントの大ファンだった。コービー1は、そんな彼のために、小学生の時に両親が買ってくれた思い入れのあるシューズだったのだ。
今、渡邊は、あの頃テレビで見ていた憧れのスター選手たちがいた世界にいる。ブライアントは引退してしまったが、クリスマス前には彼が所属していたロサンゼルス・レイカーズとの対戦でベンチ入り。試合前にウォームアップしていたときに、ステープルズセンターの壁に掲げられたブライアントの永久欠番の旗も目に入ってきた。
「ここは言ってみれば自分がNBAを目指すきっかけになった場所ですし、ここでコービーがプレーしている姿をテレビでずっと追いかけて、NBA選手になりたいと思っていた」と渡邊。テレビの中にあった世界が日の前にあるのは、「不思議な感じだった」とも言う。
「達成感が正直、全然なかった」
NBAに入ってからも、渡邊のモチベーションの源は子供の頃とあまり変わっていない。バスケットボールが好きで、だからこそ最高レベルの舞台でプレーしたい。昔から変わらぬそんな純粋な気持ちが、今も渡邊を突き動かしている。
去年7月にNBAメンフィス・グリズリーズと契約を交わした渡邊は、10月27日には、グリズリーズの一員としてフェニックス・サンズ戦でデビュー。長年の目標を達成することができた。田臥勇太以来、14年ぶり、史上2人目の日本人NBA選手誕生と大ニュースにもなった。世界中のトッププレイヤーが集まるNBAは、長い間、日本人選手が手を伸ばしても届かない世界だった。そこに渡邊は間違いなく立っていた。
しかし、周囲が騒ぎ、称賛するのとは裏腹に、渡邊はまったく満足していなかった。
「最初の目標がNBAのコートに立つことで、そこから第一歩が始まると思っていたけれど、改めてコートに立ってみて、達成感が正直、全然なかった。あの試合は、完全に勝負が決まった状態で出させてもらって、得点もしましたけれど、出場も短い時間で。正直、あの場面は誰でもいいわけじゃないですか。当然嬉しかったですけれど、(達成感は)なくて。ただ、NBAに対する思いはもっと強くはなりました」