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NBAデビューに達成感はなかった。
渡邊雄太が描き続ける未来の自分。
text by
宮地陽子Yoko Miyaji
photograph byGetty Images
posted2020/06/15 08:00
2018年10月27日。NBAデビューした渡邊雄太の目に映っていたものは、さらに先の景色だった。
「それよりもっと次、こうしたい」
デビュー戦で渡邊が試合に出たのは、試合残り4分31秒。グリズリーズは25点の大量リードを取っており、残り時間で逆転される可能性がないからと、仕事を終えた主力がベンチに下がり、代わりにそれまで出番がなかったベンチ要員が試合に出てくる。俗に言う『ガーベッジタイム』だ。
「自分自身、あまり達成感みたいなのを感じることがなくて。なんか、ある程度、自分のなかで定めたゴールをクリアしても、それよりもっと次、こうしたいっていう気持ちのほうが強くなるんです」
NBAは人生の転機ではない。
'18年は、そんな渡邊にとって、ひと言で言うとどんな年だったのだろうか。
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「“変化”ですね。大きな変化があった1年だったと思います」
ジョージ・ワシントン大での4年間を終えて卒業し、プロになった。NBAチームのトライアウトを受け、NBAドラフトでの指名こそなかったが、サマーリーグ出場を経て、7月にグリズリーズと契約した。
ただ渡邊にとって、それらの変化は、あくまでこれまでの延長線にすぎないという。人生の転機となった年かと問うと、「転機……ではないかもしれないですね」と言う。「これまでの延長線上で、自分がまず目指したところをクリアして、これからまた新たなところを目指すという感じ。日本からアメリカに来た時のほうが自分の中でもっと大きな影響とか変化があった。大学時代から自分はプロ意識を持って生活はしていたから、プロになって変わったことといえば、勉強に使っていた部分をもっとバスケットに集中できるようになったくらいなので。大学4年間通してプロになる準備ができていたかなと思います」
そういえば、去年3月、大学のシーズンが終わったときに渡邊は「これからの自分が楽しみです」と言っていた。まだNBAに入れる保証も何もないときだけに印象的だったのだが、新しい世界に挑むためにできる準備はすべてしたという自負があったからこそ出てきた言葉だったのだ。