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藤井聡太の将棋はどこが美しいのか。
「芸術作品」と評す飯島七段に聞く。
text by
中村徹Toru Nakamura
photograph byKYODO
posted2020/06/10 18:15
数々の記録を更新し続ける藤井聡太。棋聖戦で優勝すれば史上最年少でのタイトル獲得となる。最短で7月9日に決まる。
「本当に芸術作品のような将棋を指しています」
飯島は藤井とも奇縁がある。藤井がまだ三段だった中学生時代、師匠の杉本昌隆八段(51)に連れられて東京で棋士たちと「武者修行」を行った。その時の対局者の一人が飯島である。
飯島が振り返る。
「あの頃、藤井君は愛知県に天才少年現る、と既に有名な存在だったので是非盤を挟んでみたいと思っていました。
あれはもう4年前になりますか。当時から終盤の読みの精度は高かったですが、まだ序盤が粗くて、追い込んで勝つタイプだなという印象がありました。
今は全く違います。洗練されているし、永瀬戦の解説でも言った通り、本当に芸術作品のような将棋を指しています」
「藤井さんは全部の駒を綺麗に使う」
飯島が言う“芸術性”とは何か。
「将棋は9×9の81マスを舞台に、2人で40枚の駒を使って戦うゲームですが、プロ棋士でも、全てのマスと駒を有効に使いきれない人は実は結構いるんです。
藤井さんは全部の駒を綺麗に使う。永瀬戦の『2七銀成』という手は正にその象徴です。
指し手の事になるので将棋に詳しくない方にとっては難しいかも知れませんが、相手の防御が行き届いてるところを敢えて攻めていく一手でした。一目、筋が悪く見える為に普通のプロはまず指さない、いや、指せない手です」
飯島が藤井の将棋に「芸術性」を感じるのは、もう1つ理由があると言う。
「終盤の正確さです。勝ちがあったら逃さない。詰みがあったら必ず詰ます。だから藤井さんの将棋は美しいんです。
形勢が有利になったらそのまま一気に持っていきますから。僕のような先行逃げ切りを狙うタイプは、先行に失敗するとダラダラ指してしまいがちですから、本当に羨ましい(笑)」