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藤井聡太の将棋はどこが美しいのか。
「芸術作品」と評す飯島七段に聞く。
text by
中村徹Toru Nakamura
photograph byKYODO
posted2020/06/10 18:15
数々の記録を更新し続ける藤井聡太。棋聖戦で優勝すれば史上最年少でのタイトル獲得となる。最短で7月9日に決まる。
鬼気迫る“王手ラッシュ”をかいくぐった。
プロでも頭を悩ませる難問が続出する「詰将棋解答選手権」で、小学6年生から5連覇中の藤井にとって、「詰む・詰まない」の見極めは得意中の得意。
「昨秋、山梨県甲府市で将棋イベントがあり、渡辺さんや永瀬さんなど錚々たるメンバーが集まったんですが、その時に藤井さんが控室で『こういうのあるんですけど』と言って、布の盤に自作の詰将棋を並べたんです。
棋士たちはみんな目の色を変えて解こうとしました。僕は恥ずかしいんですが解けなくて、『宿題にします』といって場を離れました。一日かかりましたね、解くまでに。17手詰めくらいでした。藤井さんの詰将棋の才能は別格です」
渡辺との棋聖戦第1局の最終盤でも、渡辺の鬼気迫る16手連続の“王手ラッシュ”を見事にかいくぐって勝ち切った。
フェルメールや印象派の絵を観ているかのよう。
飯島は、藤井の将棋を解説しながらかつてない感覚に捉われたと言う。
「彼の将棋を、ずっと見ていたいなと感じたんです。将棋はいつか必ず終わります。僕は野球やゴルフも大好きなんですが、どれだけの名勝負でも、延長戦やプレーオフがあっても、やがて必ず決着はついてしまいますよね。でも永瀬さんや渡辺さんとの対局は終わって欲しくなかった。
美術館でフェルメールや印象派の絵を観ている時と同じような感覚です。『このまま長く観ていたいな』っていう……。
対局者は、共同作業で最高の棋譜を残したと思います」
タイトルに片手がかかっている藤井。このまま戴冠し、かつての羽生善治九段(49)のように「一人勝ち」の時代を築くのだろうか。