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松山英樹は“窮地”に異常なほど強い。
ドライバーが折れても勝った6年前。 

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桂川洋一

桂川洋一Yoichi Katsuragawa

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posted2020/06/01 15:00

松山英樹は“窮地”に異常なほど強い。ドライバーが折れても勝った6年前。<Number Web> photograph by AFLO

6年前の今日、米ツアー初優勝を挙げた松山英樹。あらゆるアクシデントにも動じない強さを発揮した。

どんな状況でも動じない松山。

 実は最近まで明かされなかった裏話が、この3日前の出来事。大会の初日、松山はホテルの自室にパターを置いてきてしまっていた。発覚したのはスタート直前のパッティンググリーン。毎朝、選手の部屋からバッグを持ち出す役目を担っていた進藤さんは責任を感じて「この世の終わり……というか、生きた心地がしなかった」と青ざめたが、松山に動じる様子はなかったという。

 最初のホールのグリーンで松山がパターを握ることができたのは、人知れずマネージャーが自動車を走らせ、わずか数十分の間に宿舎からピックアップしてきたからだった。

 車に同乗し、コースを猛ダッシュして、松山がグリーンにたどり着く前にパターを手渡した飯田光輝トレーナーは、あれから6年経ったいまも松山の身体をコントロールしている。

「英樹は大きなアクシデントに対して異常な強さを発揮する。不思議ですよね。あのときも、最終日にドライバーが折れたときも、プレーオフの前に『折れちゃった』って笑って言うだけ。『ヤバい、どうしよう』なんていう仕草はまったくなかった」

アクシデントに対する強さ。

 PGAツアーのメンバーとして初めてフルシーズンを戦ったこの年は、まさに満身創痍だった。とくに突発的に出る左手親指の痛みへの不安が解消されることはなく、このメモリアルの時も手首にテーピングが巻かれていた。2勝目の2016年ウェイストマネジメント フェニックスオープンのときも心配が続き、翌年連覇で通算4勝目を飾ったときは首を痛めていたが、それも跳ね返して見せた。

 クラブのアクシデントでさらに言えば、'18年の全米オープンの開幕前日にはドライバーのヘッドが経年劣化でヒビが入るアクシデントがあった。「水曜日の夕方でショックだったと思うんです。でも彼は『初日に割れなくてよかった』と気持ちを切り替えて試合に臨んでいた。終わってからもクラブを言い訳にすることはないんですよね」と飯田トレーナー。

「問題が大きければ大きいほど、良い意味で開き直れる。試合中にパターがなくても、ドライバーが折れても、大した問題じゃない、いま何をすべきかをすぐに考えられる。急に起こる、分からないものに対する強さがあると思うんです。クラブが壊れたときより、よっぽどね、使おうとしていた練習器具がないようなときのほうが心配(笑)。当たり前のことができず、準備のルーティンが崩れるのを嫌うので」

【次ページ】 「窮地」すらも受け入れて。

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