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松井秀喜と番記者の友情のBBQ。
メジャー1年目、大爆発の前触れ。 

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笹田幸嗣

笹田幸嗣Koji Sasada

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photograph byKyodo News

posted2020/05/19 11:30

松井秀喜と番記者の友情のBBQ。メジャー1年目、大爆発の前触れ。<Number Web> photograph by Kyodo News

ヤンキース1年目の松井秀喜にとって転機となった2003年6月5日のレッズ戦。本塁打を含む4安打を放った。

選手と記者というより、友情。

 この日は翌日からのレッズ戦を控えた遠征地での休養日。記者陣は昼前から現地スーパーで買い出しをし、集いは夕暮れまで続いた。普段は酒を飲まない記者がビールを口にし陽気に振る舞えば、決して上手とは言えない歌で場を盛り上げ、密かに持つ芸を披露した者もいた。

『選手と記者』の集まりと言うより、『友情』がその場を支配していた。松井も記者陣の気持ちに応え、こんな言葉を叫んだ。

「もう、ゴロキングなんて呼ばせないぞ!」

 すっかり日も暮れた小高い丘で最高潮の時を迎えた瞬間だったが、翌日のレッズ戦に「2番・左翼」で出場した松井は第1打席でいきなりボテボテの二ゴロ。彼らしいオチもついた。

 だが、松井はこの遠征地で約束どおり大爆発を遂げた。

「7番」に降格された6月5日の試合で5打数4安打、3打点、1本塁打の大活躍。安打はいずれも長打という「GODZILAA」らしい打棒。のちに“シンシナティの大爆発”と呼ばれるようになったメジャーリーグのキャリアに於けるターニングポイントである。

 6月の月間成績は104打数41安打、6本塁打、29打点、打率は.394。「ゴロキング」から「RBIマシン」へと生まれ変わり、以降、彼は現役引退まで「CLUTCH(勝負強い)」の称号を欲しいままにした。

15センチ変えた立ち位置。

 当時、松井は転機となった6月5日の試合についてこう説明してくれた。

「試合前にジョー(トーレ監督)に呼ばれ、(外角の球に苦しんでいるのなら)ちょっと前(ホームプレート寄り)に立ってみたらどうかと言われました。それまでにも何度か言われていたことはあったんですけれど、あの試合は半足文(約15センチ)前に立ってみたんです」

 それまでなかなかホームプレート方向へ近づこうとしなかった理由について彼は「自分にとっての球の見え方が違ってくる」という表現をした。自分なりのゾーンが変わってしまうという意味だと解釈したのが、彼は近づいたことで打撃が変わったとは決して言わなかった。「たまたまかもしれない」と言い、「数試合後に立ち位置は元に戻した」とも説明した。

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