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田舎の公立校からBリーグMVP
田中大貴が目指してきた「万能性」。
text by
田中大貴Daiki Tanaka
photograph byAFLO
posted2020/05/12 08:00
今季は39試合出場で1試合平均11.1得点、4.8アシスト、1.6スティール。筆者とは同姓同名。
概念にとらわれないような選手に。
2年前のシーズン中、こんな話をしてくれたことがあった。
「NBAと同じく、日本のバスケットボール界も新たな時代に入っている。ポジションの概念が無くなってきているのはもちろん、かつての『こうでなくてはいけない』がもう通用しなくなっていると思うんです」
NBAでは、「ビッグマン」と呼ばれる主にゴール下を司る身長2mを大きく超える選手たちが、ボールをコントロールし、スピードとテクニックを持ち合わせ、アウトサイドからの3ポイントシュートを軽々と決める時代に入っている。
「越えなければいけないハードルは高いとは思います。でも、今までにいなかったプレーヤーになり、新たなプレースタイルを併せ持ちたいなと思います。ディフェンスはもちろん、ゲームコントロールができて、アシストを意識し、さらにゴール下へアタックにも行ける。概念にとらわれないような選手に」
こだわってきた、すべての能力を持ち合わせたユーティリティーなプレースタイル。今回のMVP受賞はまさに、彼の目指していたものが認められた証拠である。
個人スタッツ1位は名前はない。
得点、アシスト、リバウンド、スティール、ブロック、3P成功率、FT成功率という、各個人スタッツのリーダーズ表彰に田中の名はない。しかし、トップ5を見ていくとアシスト、スティール、FT成功率に名前が並ぶ。平均得点、3P成功率に関しても、昨季の数字を上回った。
「去年のワールドカップを経験し、そして東京五輪へ向かう。参加するだけの大会となってはいけない。何か新たなインパクトを残すべく戦いたい。ジャイアントキリングが現実となるような準備をしたい」
選手として、日本バスケットボール界の頂点に立った田中大貴。東京から遠く離れた故郷・長崎、小浜町のこども園には田中の色紙が飾られている。そこに書かれている「夢は必ず叶う!」という言葉。その言葉を実現させた、MVP獲得だった。
田中大貴は次にどんな夢を叶えてくれるのか、小さな田舎町のバスケ少年たちが彼のさらなる活躍を待っている。