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将来は名門新聞社社長も兼務する!?
囲碁トッププロ・一力遼八段は何者?
text by
内藤由起子Yukiko Naito
photograph byKYODO
posted2020/05/05 08:30
早碁の世界一を争う第1回日中韓竜星戦に日本代表で出場した一力八段。決勝で中国の柯潔九段(右)に敗れ、準優勝となったものの力を見せた。
中学卒がふつう、という世界で早大に進学。
京都大学医学部を卒業し医師免許を取得してからプロ棋士に転身し、碁聖のタイトルを獲得した坂井秀至八段は例外として、七大タイトル経験者で高校卒業したのは、小林覚九段と羽根直樹碁聖くらい。
むしろ中学卒がふつう、という世界で、一力八段は早稲田大学に進学する。
師匠の宋光復九段や洪四段は、碁に専念できない状況をもったいないと見ていた。その時間を碁に投入していれば、もっともっとすごい活躍をしていたはずだというのだ。
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「タイトル戦と試験の日程が被ったときは、試験日の調整や過密日程が大変でした」と一力八段は振り返っている。
棋士の間でも、一力八段の調子が落ちると、「今、試験中だから大変なのでは?」という噂が立っていた。
洪四段も「遼の何にでも手を抜かず、一生懸命なところが心配」という。
8時半になると「帰ります」。
地方での対局のあとも、早朝、新幹線で戻ってきて授業にちゃんと出る。
祝賀会のあとなど、ほかの子はカラオケやボウリングに行くが、一力八段は8時半になると「帰ります」。本当は遊びも好きなのだが、その心を殺してずっと自分を律してきた。
「当面は囲碁に注力して頑張ってまいります」と一力八段は言うが、将来的には軸足が会社のほうになる可能性もあるという。
囲碁は、年齢を重ねても息長く活躍できる。羽根碁聖は43歳のタイトルホルダー。過去には67歳でタイトルを獲得した藤沢秀行名誉棋聖もいる。
しかし、一力八段が全力で囲碁に向き合える時間は、他の棋士と比べて短いのかも知れない。
悔いの無い囲碁人生のためにも、1日も早いビッグタイトル獲得を期待したい。