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イチローと松井秀喜がいた幸福を、
球音が消えた今こそ思い出す。
text by
四竈衛Mamoru Shikama
photograph byGetty Images
posted2020/05/07 19:00
'14年、当時イチローが所属していたヤンキースのキャンプに、松井が臨時コーチとして参加。立場は違えど、同じユニフォームに袖を通した。
共通点は日本球界を背負う責任感。
その後の2人の活躍を、ここで記す必要はないだろう。あまりにもキャラクターが異なるため、彼らを比較することは不可能に近く、その必要すらないだろう。
だが、2人には明確な共通点があった。
イチローと松井は、常に日本球界を背負い、引っ張っていく、という強い意志だけでなく、責任感を持ち続けていた。そして、グラウンドの内外で球界の大看板として振る舞ってきた。
2人がそんな思いを公言することはなかったかもしれない。
常にメディアに対しても緊張感を求めていたイチローは、豊かな語彙力を生かし、鋭いメッセージを発信してきた。
一方の松井はほぼ毎試合後、カメラの前に立ち、真剣に、時にジョーク交じりに言葉をつないだ。互いの手法も距離感も違う。ただ、2人はメディアの向こうに多くのファンがいることを、常に忘れることがなかった。
松井引退時の「ただただ寂しい」。
2012年を最後に、松井が引退した後、イチローは言った。
「ただただ寂しい」
そこには、2人だけにしか理解できない、背負ってきたものへの共通意識、そして尊敬の念が含まれていたのではないだろうか。
野球がない今、あらためて、2人がいた時代、その風景を当たり前のように見られていた時間が、いかに特別であったか、との思いが湧いてくる。
再び、球音が戻ってきた時。
またいつの日か、イチローと松井が同じグラウンドに立つことを思い描くことは、贅沢な願いだろうか。(敬称略)