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人生100歳時代のスポーツとは?
高橋秀実『一生勝負』の凄い人達。
text by
藤森三奈(Number編集部)Mina Fujimori
photograph byNanae Suzuki
posted2020/04/30 15:00
83歳にして毎日練習に励む増田ワカさん(右)と高木富子さん。
「『私、練習しません』って言われまして」
――その新しい見方は、マスターズにあるのではないかと。
「どんな競技でも、体力で押し切れるところがありますよね。でも歳をとって体力が衰えてもやっているということは、そこには競技特有の存在理由があるのだろうと」
――取材を始めてみて、その期待通りでしたか?
「最初に取材したのが、77歳の藤岡裕子さんという走幅跳の選手だったんですが、いきなり『私、練習しません』って言われまして。えっ? とびっくりしましたね。
それで『なんでですか?』と訊くと『ケガするから』って。『骨折したらどうするんですか!』と。実際、彼女はウオーミングアップもしないんです。会場に来て、走って、跳んで終わり。これまでスポーツの取材をしてきて、練習しない人というのは初めてでした。
普通は練習が大前提で、練習の中にドラマもありますよね。そういう価値観も吹き飛ばされました。じゃあ何をしているのかというと、彼女は『風に乗りたい』と言って風を待っていた。記録というのも『出す』ものではなく『出る』ものらしいんです。確かに風はそうですよね。風になるには練習しちゃいけないんです。自分が思い込んできたスポーツというものが、マスターズの方にうかがうとまったく違うものに見えてきました」
「まさに人生100年、大丈夫な感じ」
――メダルを300個も持っているという藤岡さんからは、「文鎮に使って」と金メダルを3つプレゼントされたそうですね。
「扇風機を使っている時なんか、本当にメダルは原稿を押さえられるんで、ありがたいです。
藤岡さんもそうですが、皆さん変わらずご活躍されていまして、その後の大会の結果もお知らせいただいております。まさに人生100年、大丈夫な感じです。空手の山田孝さん(75)の職業は発明家でして、革のお手製マスクを送っていただきました」